【人魚伝説に溺れる男】Part2
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朝食を終えたあと、部屋にはゆったりとした時間が流れていた。
宿の窓から射し込む朝陽は優しくて、
コーヒーの香ばしい匂いと相まって、心地よい眠気さえ誘ってくる。
俺はベッドに座ったまま、椅子に腰掛けたサリスと向かい合って、コーヒーを一口啜る。
さっきサリスが入れてくれた一杯。ほんのりとした甘さと、香ばしい苦味。絶妙な加減だった。
──ああ、こういう時間がたまらなく好きだ。
ほっと一息ついてから、ずっと気になっていたことを切り出した。
「なぁ、サリス……ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なぁに?」
彼女はカップを手にしながら、首を傾げる。
「……昨日の朝、枕元にアマビエの絵が置いてあったろ?」
「うん」
「で、なんで“あの姿”を知ってたんだ?俺、細かい説明も絵も見せてなかったよな?」
するとサリスは、んー……と小さく唸ってから、人差し指を唇に当てて考え込んだ。
「夢で見た気がするのよね」
「……夢?」
「ええ。夜中、半分眠って、半分起きてるみたいな……ふわふわした中でね、
水面の向こうに、小さくて、三本足で、髪が長くて、ウロコがきらきらしてて──
なんだか“お守り”みたいな感じがしたの」
「……」
(いや、お守りってお前……“それ”まさにアマビエだろ)
サリスは、ときどきこういう不思議なことを言う。
まるで信託を授かる聖女のように、未来の出来事や“見えないもの”を感じ取る。
たとえば以前。馬車で山道を進もうとしたとき、
急に「今日は遠回りしたほうがいいわ」と言い出して、
そのまま別の道を選んだ結果──なんと予定していた道で落石事故があった。
あの時は、ほんと肝が冷えた。
他にも、奇妙な直感や、夢に出てきた精霊の助言めいたものを口にすることがある。
……おそらく、かつて精霊の加護を授かっていた名残だろう。
もしくは人魚族特有の“流れ”を読む能力とか、そんな類かもしれない。
──要するに、サリスはサリスだった。
「それとね、レオ」
と、サリスは両手でカップを包み込むようにして、話を続ける。
「東方の国にはね、妖精や神様がたくさん住んでいるっていう伝承があるの。
私たちの住む大陸より、もっとずっと神秘的なところで──」
「神様って、太陽神とか地母神とかか?」
「それもいると思うけど……たしか“ヤオヨロズ”って呼ばれてるの。
“八百万の神々”って意味らしいの。たくさんいすぎて、数えきれないほどだって」
「まじか、東方すげぇな……」
八百万。
一体どこに住んでるんだそいつら……国民より多くないか?
でもサリスは目を輝かせたまま話し続ける。
「それとね、“リュウグウ”っていう海の底のお城もあるの!
そこには“オトヒメ”っていう、おっとりしてて優雅で、それはもう綺麗なお姫様が住んでるらしくて──
ねぇレオ、機会があったら、いつか行ってみない?」
「あ、ああ……そうだな。行けたら、な」
サリスはすっかり“外交モード”に突入していた。
「お友達になれるかしら……?
やっぱり東方の礼儀作法も勉強したほうがいいわよね……。でも、もし厳しいお方だったら……どうしましょう……」
頬をほんのり桜色に染め、ソファのクッションをぎゅっと抱きしめながらうろたえるサリス。
──はー……
可愛すぎてため息が出る。
もう、なんだって連れて行きたくなる。
世界の果てでも、秘境の山でも、海底の竜宮城でも──
俺たちの旅には、ゴールなんてない。
時間はたっぷりあるし、道も無限に続いてる。
