【小さな家族ごっこ】Part2 夜を紡ぐ二人※
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
朝の光が、ゆっくりと部屋を満たしていく。
外の世界はもうすっかり目覚めていて、石畳を行き交う人々の足音、どこかの窓から漂ってくるパンの焼ける匂い。
けれど、この小さな宿の一室には、まだ“ふたりだけの時間”が残っていた。
ベッドの中、ふわりとしたシーツの上で──
「……ぅ、う……」
レオは身を起こしかけたところで、すぐに声の主に気づいて振り返る。
「……サリス? 大丈夫か?」
彼女はシーツをぎゅっと握りしめたまま、眉をひそめていた。
「ん……なんか……腰、変な感じ……それと、お腹のあたり、ちょっと、重だるいかも……」
レオの顔から血の気が引いた。
「っ……ご、ごめん! まさかそんな……いや、俺、力入れすぎたか? いや、そんなつもりは──!」
急にしどろもどろになり、焦った様子で身を乗り出すレオ。
さっきまでの「抱きしめたくてたまらない男の顔」はどこへやら。
目の前にいるのはもう、あたふたと動揺する、ほぼ“少年”だった。
「ほんとに、ごめん。ごめんな……痛いの、俺のせいだよな、ああっ、バカだ俺……!」
「ふふっ……」
サリスは、苦笑しながら彼の袖を引いた。
「大丈夫。ほんの少しだし……こうなるって、わかってたもの。……でも、まさかこんなに謝られるとは思ってなかったわ」
「だって、お前が痛がるの見るの、俺、一番つらい……っ」
「……レオ」
彼女はベッドの上で、少しだけ体を起こし、彼の頭を優しく撫でた。
「いつも気を張って、強くて頼もしいあなたが……私の前では、こうやって子どもみたいになってくれる。それが、私には──たまらなく可愛くて、愛しいの」
レオは照れくさそうに頬をかきながら、サリスの手に額を預けた。
「……俺、もっと大人でいなきゃって思ってたんだけどな……お前の前だと、ダメだ。全部、素が出ちまう」
「それが、嬉しいのよ」
サリスが微笑むと、レオはようやく、ほっとしたように彼女の手を握った。
「……次はもっと、優しくする。約束する」
「……次があるのね?」
「っ……ああ、もう……!」
レオが顔を真っ赤にしてうつむくと、サリスはくすくすと笑って、それだけで少し痛みがやわらいだ気がした。
そして──
旅立ちの朝は、そんな甘さを残しながらも、ゆっくりと始まっていった。
***
荷物をまとめ、階下の食堂に降りると、女将さんがカウンターの奥でにっこりと笑っていた。
「あらまぁ、おはようさん。ふふ、よく眠れたみたいだねぇ?」
レオは目をそらし、サリスはぽっと頬を染めながら、そっと笑ってうなずいた。
「おふたりさん、顔が明るいわねぇ? 若いって、いいことねぇ〜。さあさ、これ。お昼にでも食べなさいな。ふたり分、こさえといたから」
差し出されたのは、焼きたてのパンと果物を詰めた布包み。
「ありがとう……ございます……」
レオがぎこちなく受け取ると、女将さんはにやりと意味深な笑みを浮かべた。
「なーんも言わんよ、こっちはね。ああ、でも……壁はそんなに厚くないからねぇ?」
「……っ!!!」
サリスはぷるぷると笑いをこらえ、レオは小声で「もうここには二度と泊まれねえ……」と呟いた。
でも、そんなやりとりさえも、どこか懐かしくなる気がした。
外へ出ると、空はすっかり晴れていた。
風が心地よく吹き抜け、行き交う人々の間を、ふたりは肩を並べて歩き出す。
「……ねぇ、レオ」
「ん?」
「また、どこかで“ピーターくん”みたいな子に会えるかな?」
レオは、ふと笑って答える。
「会えるさ。……俺たち、旅してるからな。いろんな出会いがある。嫉妬も、困惑も、全部含めて──悪くなかった」
「ふふ……今度は、パパって呼ばれても、もうちょっと余裕で応えてみせる?」
「……その時は、ママがフォロー頼むな」
ふたりは、顔を見合わせて笑った。
旅路の果てに何が待っているかなんて、まだ誰にもわからない。
でも今だけは──手をつないで歩くこの時間だけは、確かに愛おしかった。
さあ、再び歩き出そう。
風が髪を揺らし、空は澄みきっている。
新しい出会いと、まだ知らぬ風景が、ふたりを待っていた。
──それが、レオとサリスの「ふたりらしい」旅のつづきだった。
──Fin
