小さな家族ごっこ
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春の風が、花の香りと共に石畳の街を撫でていく。
レオとサリスは、ひとつの旅を終えたあとの束の間の休日を、とある城下町で過ごしていた。街の名は「スノアルバ」。白い街並みと風に揺れるカーテンが美しい、高台にある小さな町だ。
今日も市場の広場はにぎやかで、焼きたてのパンの香り、果物の甘い匂い、香辛料の香りが風に溶けていた。陽射しは穏やかで、行き交う人々の笑い声に混ざって、子どもたちのはしゃぎ声が響く。
「……こういう場所、サリスは好きそうだな」
「うん、好きよ。風が歌ってるみたい」
サリスはふわりと笑い、真っ白なスカートの裾が風に揺れる。彼女の手には、色とりどりの野菜と果物を詰めた小さな袋。今夜は宿で、レオに料理をお願いする予定だ。
レオは彼女の荷物をさりげなく受け取りながら、ふと目を向けた。
噴水のある広場の中央、ひとりぽつんと座る小さな男の子がいた。まだ七歳ほどだろうか。ぼさぼさの茶色い髪に、擦り切れた上着。膝には小さな傷跡がある。手にはアイスの棒が握られているが、もう中身はなく、ただの木の棒だ。
「……あの子、ひとり?」
サリスが気づいて立ち止まる。
「さあな。母親が近くにいるだけかもしれない。市場ではよくあることだ」
レオは目を細めながらも、どこか気にしていた。
「でも……なんだか、寂しそうな顔をしてる」
そう言うと、サリスはレオの制止も聞かず、ひとりで男の子の元へ歩いていった。レオは小さくため息をつき、仕方ないなと言わんばかりに後を追う。
サリスはしゃがみこみ、目線を合わせて微笑んだ。
「こんにちは。お名前、なんていうの?」
男の子は驚いたように顔を上げた。瞳の奥に一瞬、怯えの色が浮かぶが、サリスのやわらかな声にほぐされたのか、小さな声で答えた。
「……ピーター」
「ピーターくん、こんにちは。私の名前はサリス。こっちはレオ」
「……レオ。……変な名前」
「は?」
レオが眉をひそめたが、サリスはクスクス笑ってごまかした。
「ねえ、ピーター。お父さんとお母さんは、どこにいるの?」
サリスの問いに、ピーターの表情がほんの一瞬、曇った。
「……ママも、パパも……いない」
その言葉はとても静かで、でも、どこか用意された台詞のようだった。
サリスは小さく息をのんだ。レオは横目でピーターの表情を見て、ほんのわずかに眉を動かした。
「そう……じゃあ、ずっとひとりでここにいたの?」
ピーターはうなずいた。でも、その目は泳いでいた。
レオは黙っていた。鋭い直感が、子どもの嘘を察していた。でもそれを指摘することはせず、ただポケットに手を突っ込み、様子をうかがう。
「ご飯は食べた? お腹、空いてない?」
サリスが優しく尋ねると、ピーターはもじもじとしながら頷いた。
「うん……でも、ボク……お金ない」
その言葉に、サリスはすぐに微笑んだ。
「じゃあ、私たちと一緒に何か食べに行かない? 広場の奥に、焼き菓子のお店があったの。あれ、とってもおいしそうだったわ」
ピーターの目が、少しだけ輝いた。
「……いいの?」
「もちろん」
そのやり取りを見ていたレオは、肩をすくめてため息をついた。
「……お前ってやつは、相変わらず誰にでも優しいな」
「だって、放っておけないじゃない」
サリスの声は静かで、でも芯があった。
ピーターは、そんな二人を交互に見つめながら、不思議そうに首をかしげた。
「ふたりは、夫婦なの?」
その問いに、サリスは顔を赤らめて目を伏せた。
一方、レオは一拍置いてから、小さく笑って答えた。
「……いや、違う。けど……まあ、そんなもんかもな」
ピーターはにやりと笑った。
「ふーん。じゃあ、おねえちゃんがボクのママになってよ」
その無邪気な一言が、静かに、でも確実にレオの感情を揺さぶったのだった──。
