エメラルドの檻 ─番外編─【オリジナル夢】
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旅の途中、ふたりはとある港町に立ち寄っていた。
潮の香りに混じって漂うパンの匂い。波打ち際のきらめきと、小舟のきしむ音。
レオとサリスは、日用品や保存食を買い揃えるため、街の中心部へと歩いていた。
「この辺りの塩は、干潮の時に干し岩から採るんだそうだ」
「へえ……。なんだか、海の贈りものみたいね」
サリスは袋を抱えながら、楽しそうに笑った。
ふわりと風に乗って、甘い声が響く。
「甘い甘いアイスクリームはいかが〜? 冷たくて、美味しいよ〜!」
思わず足を止めたのは、レオではなくサリスだった。
声の先に目をやると、白いエプロンをかけた男性が、大きな樽のような箱を屋台の上に乗せて売っていた。
周囲には子どもたちが群がっていて、皆、笑顔で棒付きの冷たいお菓子をしゃぶっている。
「……あいす、くりーむ?」
サリスが不思議そうに、少し舌足らずに呟いた。
「アイスクリーム。ミルクで作った甘くて冷たいお菓子のことだよ。暑い日に食べると特に美味しい」
レオがそう説明すると、彼女の瞳がぱぁっと輝いた。
「甘いの? 冷たいの?」
「ああ。たぶん、サリスの好きな味だと思う」
そう言うと、サリスは屋台の方をちらり……またちらり……と、まるで猫のように様子を伺い始めた。
レオがその様子を見て思わず吹き出す。
「欲しいなら欲しいって言えばいいだろ」
「……だって、初めてだから、なんて言えばいいのか……」
サリスは頬を染めて、指先で髪をくるくるといじる。
レオは笑いながら、彼女の手を引いた。
「よし。じゃあ、俺が買ってくる。待ってろ」
「ほんとう!? ありがとう、レオ!!」
サリスはぱっと笑顔を咲かせて、勢いよくレオに抱きついた。
そのあまりの無邪気さに、レオは「うわっ」と声を漏らしつつも、思わず彼女の頭を優しく撫でた。
(まったく……本当に、かわいいな。お前は)
そう心の中で呟きながら。
「ミルクとチョコレートください」
注文を終え、木のベンチに並んで座るふたり。
潮風に溶けるように、アイスが手のひらに少し冷たい。
「……いただきます」
サリスは、慎重に、舌の先でちょん、とアイスを舐めた。
「…………!」
目が丸くなる。
「ど、どうだ?」
レオが隣で尋ねると、サリスは瞳をきらめかせたまま答える。
「……なに、これ。……すごく甘くて、冷たくて、ふわって……とろけるみたい……」
「それがアイスクリームだ」
「これが……アイスクリーム……!」
感動しているのか、まるで神聖な儀式にでも参加しているような顔のサリス。
その姿にレオは思わず笑ってしまった。
「レオのは?」
「チョコレート味。ちょっとビターだけど甘いよ」
サリスは自分のアイスをぺろりと舐めながら、レオの方へ顔を近づけ──
「あ……レオ、ちょっと……口の端、ついてる」
「あ?」
サリスは自然な仕草で、彼の口元についたチョコを指先で拭うと──
そのまま、ぺろり。
「ちょこれーとって味も、美味しいのね!」
と、にっこり。
──レオは一瞬、固まった。
「おま、おま、お前なっ……!」
真っ赤になり、言葉がつっかえて出てこない。
顔を覆うようにして俯いたレオは、情けなくも内心で叫ぶ。
(……またしてやられたっ!)
「サリス、頼むから……頼むからな? こういうの、他の奴には絶対やるなよ」
「ふふっ、わかったわ。レオだけにする」
あっさり言って笑う彼女の笑顔に、また撃沈するレオ。
ベンチの上でアイスを手に笑い合うふたりの姿は、
海の風に揺れる旗と、遠くに響く波の音に包まれて、
この上なく穏やかで、あたたかな午後を彩っていた。
この日を境に、サリスはすっかり“甘いもの”の虜になってしまうのだった──
****
午後の陽が柔らかく差し込む、街外れのティーハウス。
ガラス越しには花壇のラベンダーが風に揺れて、窓辺の紅茶の香りと混ざりあう。
ふたりは予約していたアフタヌーンティーセットを前に、向かい合って座っていた。
──三段のティースタンドに、美しく並べられたお菓子たち。
サンドイッチにスコーン、ベリーのタルトに、キラキラと光るゼリー。
そして、ほんのり温かい焼き菓子と、甘やかな生クリームが添えられたケーキの数々。
「わぁ……!綺麗……」
目を輝かせるサリスは、まるで宝石箱を開けた少女のようだ。
その指先は、何を食べるか迷って小さく空中をふわふわと漂っていた。
──レオはというと、紅茶をひと口すすぎながら、遠い記憶を思い出していた。
(……そういえば、あの時だったな。サリスが初めてアイスを食べて、大の甘いもの好きになったのは)
港町の午後。
冷たいミルクアイスを手にして、まるで精霊に出会ったかのように感激していたあの笑顔。
(……いや、それにしてもだ)
「レオ、次はこの苺のケーキを一緒に食べましょう!」
「……お、おう」
(ちょっと、いや、かなり食べすぎなのでは!?)
視線の先には、スコーン2つ、マカロン4つ、ベリータルトとティラミスをすでに平らげたサリス。
まったく胃がどうなっているのか謎だが、表情は至福そのもの。
(普段から食事もしっかり食べると思ってたけど……甘いものまでとは)
ちらりと、自分の皿の前を見る。
ほとんど手をつけていないケーキ。対して、サリスの皿はいつのまにか“空”。
しかも、こちらをじーっと見つめてくる。
「……レオ、そのカスタードタルト、もう食べないの?」
「……やるよ。ってか、やるからおとなしくしてくれ」
「やったあ!」
にこにこと笑いながら、サリスはまたフォークを構えた。
(……本当に、甘いものに関してだけは目の色が違うな)
でも、その嬉しそうな顔を見ると、つい許してしまう。
そんな自分にも、もうとっくに甘くなってしまっている気がして、
レオはふぅと静かにため息を吐いた。
窓の外には、初夏の風と、蜂が小さく舞うハーブの花々。
どこまでも、のんびりと、甘い午後だった。
──Fin
