イタズラ妖精・パック
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それからというもの、サリスの“お世話モード”は、留まるところを知らなかった。
妖精パックの悪戯によってレオの姿は子供に戻り、どうやら心も一緒に巻き戻ってしまったらしい。記憶は七、八歳程度。素直じゃないくせに、やたらと負けず嫌いで、でもふとした瞬間に見せる寂しそうな眼差し──そんな“小さなレオ”と向き合う時間が始まった。
「なあ、サリス。おれ、一人でできるから!」
テーブルの上に置かれたスープ皿。手にしたスプーンは、まるで戦う剣のように握られている。しかし──
「ほら、そんなにこぼして!もう、服まで汚れちゃうじゃない」
サリスは小さくため息をついて、濡れた布巾で彼の口元を拭ってやる。頬がぷくっと膨れた。
「子ども扱いすんなってば!」
「でも子どもでしょう?」
「ちがう!」
むくれるレオに笑いをこらえながら、サリスはスプーンを持ち直し、そっと言った。
「じゃあ、“はい、あーん”してくれたら許してあげるわ」
「やめろぉ〜!」
宿の部屋中に、もはや恒例となった声が響く。
***
夜になり、お風呂の時間。
「いや、いいって!入らない!一人で平気!」
「だ〜め。あなた、散々逃げ回っていたせいで汗かいてるでしょ?
背中、ちゃんと洗ってあげるから。ね?」
「背中くらい、自分で洗えるっつーの…!」
──が、結局、サリスの押しに負けて観念したレオは、真っ赤な顔で脱衣所からぴょこりと顔を出し、黙って湯船に浸かっていた。
湯気が上がる中、サリスは後ろに座り、タオルを泡立てて、そっとその背中をなぞる。ふだんはがっしりしているレオの背中も、今は華奢で小さく、骨の輪郭が手に取るように伝わってくる。
「……母さんがいたら、こんな感じだったのかな」
その声は、湯に沈むように小さく、どこかぽつりとした響きだった。
サリスは手を止める。
「……おれ、ずっと一人だったから」
その言葉を聞いて、ふと、あの夜の焚き火を思い出す。森の中で彼が語った、幼少期のこと。名前もなく、盗みと逃げることでしか生きられなかった日々。そして、ようやく人の優しさに出会ったとき、彼の中に灯った“守る”という意味。
その全てが、この小さな背中に詰まっているようだった。
サリスは湯気の中でそっと彼を抱きしめる。
「大丈夫よ。今は辛くても、あなたはきっと、幸せになれるわ」
「……ほんとに?」
「ええ、ほんと」
優しい約束は、湯の中に溶けて消えていった。
***
お風呂から上がると、今度はドライヤーの番。
「前にも髪、乾かしてもらったことある気がするな…なんでだろ」
「ふふ、気のせいじゃないかしら?」
サリスはタオルで彼の髪をやさしく包み込み、指で梳かしていく。彼の瞳がだんだんと眠たげに細くなっていくのがわかる。
「明日になったら、元に戻れるかしらね……」
ふたりはその夜、同じベッドに入ることにした。
「サリス」
「なぁに?」
「……もう、会えないの?」
その声は震えていた。寂しさと、恐れと、願いが一緒になったような、子供らしい、だけどどこまでも本気の声。
「……大丈夫よ。すぐに会えるわ。だから、安心して眠って」
そう言って、サリスはそっと、子守歌を歌い始めた。
⸻
“眠れ、眠れ 泡の子よ
潮のゆりかご 揺れるまま
珊瑚の森で 迷っても
泣かないで いつもそばにいるわ…”
⸻
サリスの声が子守唄のように部屋を包み込む中、小さなレオは目を閉じ、そっとサリスの手を握った。
そして、静かな夜がふたりを包んだ──。
