イタズラ妖精・パック
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西の山々を越えた先、霧と緑に包まれた北西の街──ハルシオン。
古都を思わせるような石畳の通り、尖塔のある教会、そして通りに漂うベリーと香辛料の甘い匂い。この街では昔から、ある一人の妖精の噂が語り継がれていた。
その名は「パック」。姿を見せることは稀だが、好奇心が旺盛でイタズラ好き、何かと人間にちょっかいを出すという妖精である。
彼が現れるときには、必ずと言っていいほど騒動が起こる。
そんなハルシオンの街に、レオとサリスの二人が訪れたのは、黄昏の風が街に魔法のような温もりを運んでくる頃だった。
「…ん?サリス、今ちょっと変な顔してなかったか?」
市場で夕飯の買い出しをしていたレオが、手にしたトマトを袋に入れながら彼女の顔を覗き込む。
サリスはきょろきょろと周囲を見渡していたが、すぐに苦笑いを浮かべた。
「なんでもないわ。…ただ、何か妙な気配を感じたの。誰かに見られてるような……でも、悪意はなさそうだったから」
「敵ってわけじゃなさそうってことか?」
レオは途端に目を鋭くして辺りを警戒し始めたが、サリスはそっと彼の袖を引いて軽く笑った。
「たぶん、そこまで悪い子じゃない気がするのよ。たぶんね」
──その“妙な気配”は、確かに一日中彼らの後ろをついてきた。だがそれ以上の干渉はなく、二人はやがて気にせず宿へと戻った。
***
「…さて、今日は俺が作る番だな。サリスは皮むき係頼んだぞ」
「ふふっ、了解。今夜はレオ特製のビーフシチューかしら?」
木造の小さな宿の厨房を借りて、ふたりはいつものように夕食の準備をしていた。レオは鍋に香草と肉を入れ、火加減を調整しながら鼻歌を歌う。サリスはじゃがいもの皮を器用に剥いている。
…そのときだった。
突如として窓がパリーンと開き、冷たい風とともに何かが中に飛び込んできた。
「っ!?」
レオが咄嗟に構えたが、飛び込んできたものは──
「な、なんだこの…ガキ……」
それはまるで子供のような姿だったが、膝下から下はヤギのような毛と蹄。目は金色に輝き、顔はどこか小悪魔的に可愛らしい。肩には小さな羽が生えていた。
「! パック……!まさか、本当にいたなんて!」
サリスが目を見開く。
「気をつけてレオ! 彼はイタズラ好きで有名な──」
「ぅわっ!?」
次の瞬間、パックはくるりと跳ねてレオの頭に飛び乗ったかと思うと、指を鳴らし──
「ボン!」
白煙が上がった。
「レオ!」
サリスが駆け寄ると、そこには、煙の中でぽつんと立ち尽くす小さな少年がいた。
赤褐色のくしゃくしゃな髪、きょとんとした琥珀色の瞳、そして――服がぶかぶかになったその体は、どう見ても七〜八歳くらいの姿だった。
「……え?」
サリスは思わず声を詰まらせる。
少年の姿をしたその子は、むすっとした表情でサリスを見上げた。
「だれ? あんた。……知らない女の人」
「……う、そ。……レオ?」
「無視すんな!おれはレオなんて名前じゃねー!」
頬を膨らませて叫ぶその姿は──紛れもなく、子供になってしまったレオだった。
サリスの目が潤んだ。
「……かわいい……」
サリスの母性が、どくん、と爆発した瞬間だった。
