赤褐色の青年は何のために剣を握るのか
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「レオ、お前、旅に出てみる気はないか?」
それは、穏やかな夕暮れ時だった。
シトロンの村を金色に染める陽が、ローレンスの後ろ姿を照らしていた。
鍛冶場からは、鉄と炭の匂いがかすかに漂っている。
レオはその言葉に、目を瞬かせた。
手にした薪を組みながら、どう答えるべきかを探すように沈黙する。
「……旅に?」
ローレンスは頷いた。
火の消えた炉の前に腰を下ろし、懐から古びた煙草を取り出す。
「もう随分と、心も体も回復したようだな。
ここで一生、土を耕して暮らしていくのも悪くはない。だが――」
目を細めたその声は、焚き火のように優しく、けれど芯のある響きを持っていた。
「お前の瞳には、もっと遠くを見ようとする色がある。
誰かの命令で動いていた日々じゃなく、自分の意思で進んでみるんだ」
その言葉に、レオの心は静かに揺れた。
“自分の意思で進め”――
それは、かつて許されなかった生き方。
命じられ、戦い、守れず、失った、あの過去を背負って生きてきた自分には…遠すぎる言葉だと思っていた。
けれど。
ローレンスやアンバーのもとで過ごしたこの日々は、
少しずつ、レオの心の中に「選んでいい」という感覚を取り戻させてくれた。
────
その晩、レオは一晩中眠れなかった。
窓の外には、柑橘の白い花が月明かりに照らされ、静かに揺れている。
旅に出る。
どこへ? なぜ? 答えはまだ出ていなかった。
それでも、動かなければならない気がした。
このまま、この村の温もりの中で全てを忘れてしまうこともできる。
けれどそれでは、ベルトホルトの「生きろ」という願いに背くことになる。
レオは、静かに拳を握った。
───
翌朝、鍛冶場に降り立つと、ローレンスが一振りの短剣を差し出してきた。
柄に刻まれた装飾は、柑橘の葉のような繊細な彫り。
鞘は黒革で、旅の汚れに耐えるような質実剛健な作りだった。
「お前専用に打った。護身用だが、重すぎないようにしてある。
大事なときには、ためらうな」
レオはしばらく見つめてから、それを両手で受け取った。
「……ありがとう。大切にする」
剣に触れたその時、少しだけ手が震えた。
だが、それは恐れではなかった。
再び握った武器は、今度こそ“守るための剣”だった。
───
村の入り口で、アンバーが荷物を手渡してくれた。
「干した果物と、黒パン。それから、この薬草は風邪のときにね」
レオは思わず苦笑する。
「これ……旅人にしては荷物、重くなりそうだな」
「いいのよ。あなたの分は、いっぱい持って行って」
アンバーの目が潤んでいたのを、レオは見て見ぬふりをした。
ローレンスは無言でレオの肩を叩き、背を押す。
「立ち止まりたくなったら、いつでも戻ってこい。
ここは、お前の居場所の一つだ」
”まだ見ぬ世界を、自分の目で見てこい。誰かの命令じゃなく、自分の意思で進め”
レオはその言葉を胸に刻みながら、振り返り、深く頭を下げた。
「……行ってきます」
───
こうして、一人の青年は旅に出た。
腰には短剣。
心には、亡き父のような男と、温かな夫婦がくれた“灯火”。
世界はまだ広く、知らない場所と出会いが山ほどある。
そしてその先で、彼は運命の少女――
銀の髪と、アクアマリンの瞳を持つ人魚の少女・サリスと出会うことになる。
けれどそれは、まだ少し先の話。
──Fin
