赤褐色の青年は何のために剣を握るのか
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十六歳という若さにして、レオは異例の早さで中隊を率いる隊長となった。
目にも止まらぬ剣の冴えと、的確な判断力――
冷静沈着、時に無慈悲とさえ思えるその戦いぶりは、
いつしか「鬼神」と呼ばれるようになった。
敵将を一太刀で討ち取り、傷ついた仲間を背負って帰還する姿を見た若き兵士たちは、レオを恐れ、同時に憧れた。
だが、本人はその名を誇らしげに思うことはなかった。
戦場に咲くのは、栄光ではなく、赤黒く乾いた血と、決して癒えぬ後悔ばかりだったから。
そんなある夜、運命の命令が下された。
──隣国との国境線を拡大するため、小さな村を囮にして敵軍を誘導せよ。
抵抗は無意味。住民の犠牲は“やむを得ないもの”とする。
「ふざけるな…!」
命令を読み上げる副官の前で、レオは机を拳で打ちつけた。
「そこに住むのは、武器を持たぬ民だぞ…! 老人も、子どももいる!」
「ですが、上官からの正式な通達です。背けば、あなたは……」
「構わない! 俺はあの村を守る。仲間も、民も、誰一人として死なせない!」
若き指揮官の叫びは、やがて自らの部隊の兵士たちを動かした。
「レオの命令なら従う」と、彼を信じる者たちが盾となり、村を守るべく配置についた。
しかし――それが罠だった。
敵軍は当初の予想を遥かに上回る数で、村へと雪崩れ込んできた。
増援も、補給も届かぬ。
それどころか、上官はレオの行動を“命令違反”と断じ、救援を拒絶したのだ。
戦いは長引き、村の大半が炎に包まれた。
仲間の叫び、子どもたちの泣き声、倒れていく者たち――
レオは、剣を振るい続けた。
血で霞む視界の中、それでも、なお振るい続けた。
だが、限界はあまりにも早くやってきた。
「レオ隊長、もう……無理です……!」
「くそっ……!」
仲間の死体が、村の焼け跡が、次々と彼の足元に積み重なっていく。
気づけば、周囲は誰もいなかった。
守ろうとしたすべてを、守り切れなかった。
──命令に背き、民も、仲間も、全てを喪った。
そして戦が終わったあと、国はこう発表した。
「作戦は成功。レオ・ヴィスナー(※姓は持たないが、記録上の名)は、命令違反により投獄。処刑予定」
彼の行動は裏切りとされ、隊は解散。
ただひとり、ベルトホルトだけが、レオの正しさを訴え続けた。
「命令に背いたのは事実だが、レオは……誰よりも人を守ろうとしていた…!」
だが、訴えは届かず、若き英雄は反逆者として、地下牢へと放り込まれる。
────
薄暗い牢の中、レオは膝を抱えていた。
光も風も入らぬ地下の牢屋。ただ、絶望と静けさだけがあった。
「……ああ、終わったな」
心の中で呟いたその時、扉の錠が音を立てて外された。
鉄の扉が開き、現れたのは――ベルトホルトだった。
「……お前、何してんだよ……!」
「来たのは見ての通りだ。逃がす」
ベルトホルトの声は短く、しかし温かかった。
レオは首を振った。
「俺を逃がしたら……お前が……!」
「いいんだ」
男は、微笑んでいた。
口の端をほんの少しだけ上げる、かすかな笑み。
「俺はもう十分に生きた。短い間だったが、お前を……本当の息子のように思っていたよ」
レオの目が見開かれる。
「……っ、そんなこと、今さら……!」
「行け。お前には、まだ生きる道がある。生きて、誰かを守れ。…あの夜のお前の判断は、間違ってなかった」
足元に置かれた荷物と旅装束。
レオは震える手で剣を掴み、最後にベルトホルトを見つめた。
「ベルトホルト……ありがとう」
男はうなずき、手を振った。
レオはその背中を振り返らずに、闇の中へと走り出した。
夜の都を抜け、追手の影を振り切りながら、ただ、走った。
風が冷たかった。息が切れ、胸が痛んだ。
けれど、あの時の声が背中を押していた。
――「生きろ、レオ」
誰も自分を知らない、遠い地へ。
過去の栄光も、地位も全て捨てて。
その逃避行の果てに、運命の出会いが待っていることを、彼はまだ知らなかった。
