赤褐色の青年は何のために剣を握るのか
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霧雨の朝。軍の訓練場には、まだ夜の名残が残っていた。
湿った地面に革靴の音が響き、兵士たちの息が白く立ち上る。
レオは、隊列の前に立っていた。
軍服の襟にはまだ新しさが残っており、肩章には階級章が縫い込まれている。
歳若くして任命されたその姿は、古参の兵士たちからすれば異例中の異例だった。
――十六歳。
それは戦の表と裏をまだ知りきらぬ年齢。
けれどレオの瞳は、年齢にそぐわぬ鋭さと深さを宿していた。
「レオ、あんたが……隊長に?」
その声に振り返ると、そこには数年の付き合いになる仲間、カミルがいた。
少し年上で、おしゃべり好きな歩哨役だ。彼は驚いたように眉を上げ、レオの肩章を見つめていた。
「……らしいよ」
淡々と、だがどこか照れくさそうに答えるレオ。
「冗談じゃねぇ。……俺たちより年下の隊長なんて、ちょっとは遠慮してくれよ」
カミルが冗談めかして言うが、その眼差しはどこか嬉しそうだった。
レオがこれまでどんな道を歩んできたかを、彼は誰よりも知っていた。
かつて、名も持たぬ孤児だった少年。
ベルトホルトに拾われ、血の滲むような訓練を繰り返し、無骨な教えを身に刻んだ。
「お前には、人の痛みが分かる分だけ強くなれる」
その言葉を、レオは何度も心の中で反芻した。
戦場では、ただ剣を振るえばいいというわけではない。
指揮を執る者は、仲間の命の責任を背負う。
「……怖いか?」
ベルトホルトの言葉が脳裏をよぎった。
「怖いさ」とレオは、心の中で答えた。
怖い。誰かを守るということは、その人を失うかもしれないという恐怖と向き合うことだ。
それでも剣を握るのは、自分自身が、誰かを“生かす”選択をしたいからだった。
――その夜、任命式の後。
焚き火の火がぱちぱちと小さく弾け、星が雲間から覗いていた。
レオは静かに剣を膝の上に置き、空を見上げた。
初めて与えられた“隊長”という名は、まだ彼の肩に重く、馴染んでいなかった。
「……なあ、ベルトホルト。俺、本当にやっていけるかな」
誰にも届かぬ問いかけに、風がそっと頬を撫でた。
あの男ならこう言うだろう。
『やるか、やらねえかじゃねぇ。やりきるしかねぇんだよ』
口の端に笑みが浮かぶ。
レオはそっと剣を立て、炎の前でひとつだけ、深く頭を垂れた。
「……隊を、守るよ。俺のやり方で」
まだ線の細い背に、それでも確かな決意が灯っていた。
それが、“守る者”レオの、指揮官としての第一歩だった。
