赤褐色の青年は何のために剣を握るのか
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どこへ連れていかれるのか、わからなかった。
だが、処刑でも牢獄でもないらしい。男はただ、静かに歩き続けた。
辿り着いたのは、街はずれの古い詰所。王国の兵士たちが交代で詰める小屋だった。
ベルトホルトは乱暴に見えて、その手つきはどこか不器用で――それでいて丁寧だった。
少年を粗末な毛布の上に下ろし、湯を沸かし、皿にパンと豆のスープを注いだ。
「食え」
それだけ言って、背を向けた男。
少年は疑いの目を向けながらも、がつがつとそれを食べた。
温かい。体がじんわりと、内側からほどけていくようだった。
「……なんで、俺を殺さなかった」
少年が呟いた。
ベルトホルトは火に薪をくべながら、ぼそりと答えた。
「見てられなかっただけだ。……俺も似たようなもんだったからな」
沈黙が落ちる。
その夜、少年は毛布に包まれたまま、初めて“誰かのそばで”眠った。
夢を見た。
名前を呼ばれる夢。
「レオ」と――まだ誰にも呼ばれたことのない、その名で。
(まるで女神のように、光に包まれた
あの人は一体、誰だったのだろうか)
───
夜の明け方――
焚き火の赤い火が、ほのかに小屋の中を照らしていた。壁の隙間から冷たい風が吹き込むたび、毛布の下で小さく震える。
少年は半分眠ったような意識の中、隣の男の背中を見つめていた。
ベルトホルトは火の世話をしていた。無骨な背中に傷が何本もあるのが、ちらと覗いた。
黙って食事を終えた少年に、男が唐突に訊いた。
「名前は?」
ぱち、と薪が弾ける音がした。
少年はしばらく言葉を飲み込み、やがてかすれた声で答えた。
「……ない」
「無い?」
「アレとか、コレとか……そう呼ばれてたから……」
それを聞いた男は、焚き火の光を見つめながら、腕を組んで少し考え込んだ。
少年の声には、悲しみも怒りもなかった。ただ、空白のような沈黙があった。
やがて、男は小さくうなずき、ぽつりと口を開いた。
「なら……お前の名は今日から“レオ”だ」
「……」
少年はまばたきをした。
「獅子って意味だ。小さくても、牙を持って、諦めねぇ奴に似合う名だろう」
「レオ……レオ…」
口の中で、そっと転がしてみる。
生まれて初めて、自分のために誰かが与えてくれた言葉。
名を持つことが、こんなにも――胸の奥を、温かくするものだとは知らなかった。
「……いいの? ほんとに、俺が……“レオ”で」
「おう。嫌なら他を考えてもいいが、俺はそれがしっくりくると思ってる」
焚き火の向こうで、ベルトホルトがにやりと笑った。
その笑顔は、少年にとって“敵”でも“脅威”でもない、初めて触れる大人の“人間らしさ”だった。
レオ――
その名を抱いたその日から、少年の中で何かが静かに動き出した。
名前を持つということは、世界に立って生きることだった。
そして彼はその名を、何よりも誇りとして、生きてゆくことになる。
