男は狼なのよ
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レオはベッドに座ったまま、まだ軽く震えていた。
心臓の鼓動が、耳の奥でずっとドクンドクンと鳴っている。
理性が何度も赤い警報を鳴らしていた。
(あれは……さすがに、ヤバい……!)
レオの視線の先では、栗色の髪をタオルで拭きながら、サリスがにこにこと微笑んでいた。
シャツの袖が指先でくしゃりと握られ、裾が柔らかく揺れるたび、どうしても視線が吸い寄せられてしまう。
「……もう、ずるいぞ。おまえ……」
「何が?」
サリスは小首をかしげ、純粋な目で問い返す。
だがその目の奥には、やはり少しだけ“確信犯”の色が見える。
「全部だよ……!」
レオは思わず枕に顔を埋め、思考を逃がそうとした。
理性の境界がもう、あと一歩で崩れそうだった。
サリスはそんな彼のそばに、とことこと小さな足音で近づいてくる。
「ふふ、そんなに慌てなくても、レオはいきなり私に手を出したりしないでしょ?」
「な、ななな、なにを……っ!」
「だって、レオはちゃんと“待ってくれる人”だもの。優しくて、真面目で──私のこと、大事にしてくれる」
サリスの声はどこまでも甘く、優しい。
その一言一言が、レオの胸をとろけさせて、そして同時に引き裂く。
(だめだ……これ以上やさしくされたら……)
(理性が、焼き切れる)
そして──
ふと、脳裏に“彼”の顔がよぎった。
──海王、オーケアノス。
サリスの父親。
白銀の長髪に青い瞳、威厳と力に満ちた、まさに神話の王のような男。
レオはかつて、命懸けで彼の前に立った。
その時の圧力は今でも夢に出るレベルだ。
「……」
(もし……ここでサリスに“手を出した”なんて知られたら……)
想像してしまった。
オーケアノス王が、静かに立ち上がり、玉座の前で言い放つ。
「ふむ。……では、死ぬがよい」
ドーンと鳴る雷鳴。
割れる大地。
召喚される深海の神獣──。
「…………ッッ!!」
レオは、自分でも驚くほど素早く立ち上がり、窓を開け放った。
夜風が顔を冷やしてくれる。
なんとか、理性は保てた。
サリスはそんなレオの背中を見ながら、肩を揺らして笑っている。
「そんなに怖がらなくてもいいのに。お父様は今ごろ海の底よ」
「いや、あのお方なら地上でも空でも現れかねない……」
「ふふ。……でもね、私はレオがいてくれれば、怖くないわ」
そう言って、サリスはそっとシャツの裾を握りながら、後ろからレオに抱きついた。
小さなぬくもりが、背中に寄り添う。
「……今日のこと、秘密にしてあげる。
でも……たまには、からかわせてね?」
「……鬼……」
「狼じゃなくて?」
「それもあるけど、いまのお前は、ぜったい“鬼”だ……」
二人の笑い声が、夜の宿に静かに溶けていった。
月明かりがその背に降り注ぎ、
寄り添う影が、ひとつに重なる──
旅の途中の、静かで甘く、そしてちょっと“危険”な夜だった。
