猫と魚と、浜辺にて
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宿に戻ると、レオはさっそく釣り上げた魚の下ごしらえに取りかかっていた。
今夜は魚のハーブ煮込み。
ローズマリーとサフラン、それに香り高いパセリを刻み、淡く色づいた塩と共に白身魚を漬け込んでいく。
鉄鍋の中で、オリーブオイルがやわらかく音を立て、食欲をそそる香りがふわりと室内に広がっていく。
その背後で、椅子にちょこんと座ったサリスが、ブランケットを膝に抱えながら、うわ言のようにぼそぼそとつぶやいていた。
「……怖かった……ほんとに、怖かったわ……」
瞳はまだどこか遠くを見つめている。どうやらまだ猫たちとの遭遇のショックが抜けていないらしい。
「あんな恐ろしい生き物が地上にいるなんて……想像もしなかった……」
レオは鍋をかき混ぜながら、苦笑を浮かべた。
「さっきも言ったが、猫はそんな怖い生き物じゃないぞ」
「そんなことないわ!あの目、あの爪、あの俊敏さ!……昔、海底でサメに追いかけられたことがあったけど……あれに匹敵するぐらい命の危険を感じたもの!」
「……猫が、サメと同じ……?」
思わず噴き出しそうになる唇を、レオはぐっと引き結んだ。
だが、無理だった。
ぷっ、と小さく笑い声が漏れてしまう。
「ちょっと!意地悪レオ!私、今日は本当に怖かったのよ!」
サリスは頬をふくらませ、赤く染まった白い肌に潤んだ瞳で睨み上げてくる。
その姿に、レオはどきりとした。
いつもは月の光のような彼女が、こんなふうに感情をあらわにしている姿は、なんともいえず可愛らしく、心を揺さぶる。
けれどこのまま笑っていたら、さらに怒らせてしまいそうだと思い、レオは少しだけ顔をそらしてから、そっと彼女の頭に手を伸ばした。
銀の髪はやわらかく、潮風の香りがまだ少し残っている。
「ごめんって。……まぁ、今度また猫に襲われそうになったら、俺が守ってやるからさ」
その一言に、サリスは不満げに唇を尖らせたまま、でもしばらくして、ふっと力を抜いた。
「……約束よ?」
「ああ、約束だ」
静かに煮える鍋の音と、風が窓辺を揺らす音が、やさしく二人の間を満たしていた。
こうして少しずつ、ふたりの旅は絆を深めていく。
海と空と、大地と風に見守られながら。
────
おまけ
煮込み料理が出来上がると、二人は小さなテーブルに向かい合って座った。
湯気の立つ鍋からは、ハーブと魚の香りがふんわりと立ちのぼっている。
サリスはスプーンを手に、そっと口に運んだ。
ひとくち、ふたくち──そして目を丸くする。
「……すごく美味しいわ! レオ! あなたって、実はシェフだったの?」
レオは少し照れくさそうに笑って肩をすくめた。
「いや、ただの旅人だよ。昔、よく野営で自分の飯は自分で作ってただけさ」
「その“だけ”で、こんな味になるの……?」
サリスは心から驚いた様子で、頬をほんのり赤らめた。
「お魚がふわっとしてて、ハーブの香りが風みたいにやさしくて……なんだか、食べるたびに歌を思い出しそう」
「歌を……?」
「うん。波の歌。……ねえ、今度、料理に合わせて私が一曲うたってもいいかしら?」
「はは、まさか俺の料理にBGMがつくとはな。贅沢な食卓だ」
そう言いながら、レオもスプーンを口に運ぶ。
サリスはその様子を、幸せそうに見つめていた。
それは、ほんのひとときの平和な時間。
けれど、ふたりにとっては何よりも大切で、かけがえのない夕餉だった。
焚き火の音が遠くでぱちぱちと鳴っている。
窓の外には月が昇り、空にはいくつもの星が瞬いていた。
そしてその夜もまた、ふたりの旅の一日が、静かに終わってゆくのだった。
─Fin
