腹が減っては戦はできぬと言うし
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───
「注文、海老の香草グリルと、トマトの煮込みスープお願いしまーす!」
「了解!あと五分で出す!」
厨房の熱気と共に、レオの指先が舞う。
魚の切り身を手際よく下処理し、香草をまぶしてオーブンへ。
手には油の跳ねた痕、頬には粉。だがその目は真剣そのものだ。
「……うちの料理長より手際いいんじゃねえか……」
厨房の年配助手がぽつりと呟くほどだった。
だが、レオの耳は……ずっと、ホールからの声に意識を飛ばしていた。
「サリスちゃーん、お水おかわり〜!」
「ありがとう、可愛いお姉さん〜!」
「なぁ、サリスちゃん。今夜、店が終わったらさ……」
(……んだと?)
レオの眉がピクッと跳ねた。
彼女は微笑み、にこやかに注文を聞き取っている。
サリスにとっては普通の接客だ。だが、レオにとっては──気が気じゃない。
(皿が落ちたのは偶然……じゃなかったな、今のは)
ポン、と床に落ちる小皿。それを拾いながら、レオは心の中で沸騰するスープをひっくり返したくなる衝動を抑えていた。
***
「おつかれさまー!」
その日の営業が終わると、スタッフたちは裏口で一息ついていた。
レオは少し汗ばんだ額をハンカチで押さえ、ふぅと息を吐く。
「レオ、疲れてない?すごく頑張ってたわよ」
そう言って、水の入ったマグを差し出してくる。
「……サリス。あいつらに何か言われてなかったか?」
「え?」
「その……変な誘いとか……」
「変な誘いって……ああ、でも“大好きなメニューです”とか“笑顔が素敵”とか?」
「……それだよ」
レオはうつむいた。
あきらかに、不機嫌が背中ににじみ出ている。
サリスは、ぷっと吹き出した。
「レオ、もしかして……ヤキモチ?」
「や、ヤキモチなんかじゃ……ただ、その……あいつら、目がいやらしすぎるんだよ……」
「ふふ、ありがとう」
そして、サリスはそっとレオの頬にキスを落とした。
「私が好きなのは、厨房で汗をかいて、みんなのために頑張ってたあなたよ」
「……っ」
しばし言葉を失ったレオは、まるで鍋の中のトマトスープのように赤くなった。
「さ、明日も頑張りましょう。……ね、私の“恋人さん”?」
「……ああ、任せとけ」
その夜、《パンと風》のまかないごはんは、レオの特製“恋人煮込み”。
誰よりも先にサリスに味見させたのは、言うまでもなかった。
