子犬と、やきもち妬きな恋人
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宿の部屋に戻ると、サリスはさっそく料理の支度を始めた。
「今日はね、胃にも心にも優しいごはんにしようと思って」
レオはベッドに腰かけたまま、その後ろ姿をぼんやり見ていた。
栗色の髪がやわらかく揺れ、袖を少し折り返しながら、慣れた手つきでハーブと野菜を刻んでいく。
(……さっきまで、子犬に夢中だったのにな)
それなのに今は、俺のためにごはんを作ってくれてる。
それだけで、なんだか胸がいっぱいになる。
やがて、鼻をくすぐる優しい香りが部屋中に広がり始めた。
「……できたわ。ちょっと座ってて」
テーブルに置かれたのは、ハーブで煮込んだ白身魚のスープ。
さっぱりとしながらも、しっかりと出汁の旨味が出ていて、ローリエやディルの香りがふんわりと立ちのぼる。
その横には、ほかほかのパンと、蜂蜜バター。
「いただきます」
レオは一口スープを飲んで──思わず言葉を失った。
「……うまい。やさしい味だな」
「ふふ。今日は“甘やかしレシピ”だから」
スープだけじゃない。添えられたサラダにも、色とりどりの花びらやベリーが飾られていて、まるで花畑のようだった。
「おまえ、ほんとに……料理、どんどん上手くなってるな」
「レオの“美味しい”って顔が見たくて、頑張ってるのよ?」
サリスがそう言って微笑んだときだった。
レオはふっと、つい気の緩みから、うっかり心の声を口に出してしまった。
「……俺、さっきちょっとだけ……子犬になりたかった」
「……え?」
サリスの手が止まり、レオの目が泳ぐ。
「ち、ちがう! いや、ちがわないけど! おまえがあいつにばっか構うから、なんか、むかついたっていうか……っ」
慌てて取り繕うレオに、サリスは数秒ぽかんとしたあと──くすりと笑った。
「ふふ、かわいい」
「かわいくねぇし!」
「……じゃあレオ。今日は、私がその“子犬”のかわりに、たっぷり甘やかしてあげる」
そう言って、サリスは彼の背後からすっと寄り添い、腕を背中にまわして、そっと抱きしめた。
「ん……」
「ぎゅってされるの、好きでしょ?」
「……ああ。……ずっと、こうしてくれてもいい」
レオは目を閉じて、サリスの肩にもたれた。
彼女の心音が、耳にじかに響く。
「強がっていても、レオが“甘えんぼ”なの、私は知ってるのよ?」
「やめろ……それ、俺以外には言うなよ」
「うん。内緒にしておく。……レオだけの、秘密」
その囁きに、レオの胸はもう、とろけそうだった。
外は夜風が吹きはじめていたが、二人のいるこの部屋だけは、とてもあたたかかった。
サリスの腕のなかで、レオは最後にぽつりと呟いた。
「……君の腕のなかが、一番あったかい」
「ふふ。ありがとう。……これからも、ずっとそうでいられるようにするね」
明かりの落ちた部屋で、静かに、穏やかに、ふたりの夜が過ぎていった。
── fin.
