エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
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夜になると、村の広場で宴が始まった。
焚き火を囲んでエールやワイン、焼きたてのソーセージや熟成チーズが並び、村人たちは笑顔で語らい、歌い、杯を交わした。
「飲んでるか〜、兄ちゃん!」
「アンタらはこの村の英雄さ!」
レオは次々と酒を勧められ、男たちの輪に押し込まれていった。
サリスはその様子を微笑ましく見つめながら、手を小さく振った。
────
ふと、子どもたちの声が響いた。
「サリスおねえちゃん、キレイ〜! 妖精さんみたい!」
「おねえちゃん、魔法つかえるの!?」
「ふふっ……内緒よ」
すると、一人の女の子が彼女の足元にある布包みを指差した。
「あれなぁに?」
包みの中から覗いていたのは、カルヴァスから託された“風の竪琴”。
「これはね、
「ひいて〜! おねがい!」
サリスは子どもたちに囲まれながら、小さく頷いた。
「……ふふ、いいわよ」
────
サリスはゆっくりと立ち上がる。
腕に抱えていた“風の竪琴”が、月明かりを受けてほのかに輝いた。
広場の真ん中に進み出て、火のそばに腰を下ろす。
子どもたちがそのまわりに集まり、静かに見上げる。
村の者たちも皆、自然と彼女の周りに集まり始めていた。
は、そっと目を閉じた。
指が、風の精霊の加護を受けた弦に触れる。
最初はかすかな音色だった。
けれど、それはやがて、夜風に乗って、広場中に染み渡っていくように広がった。
そして、彼女は歌い始めた。
────
しずかな潮に ゆられてゆけば
星のかけらが 眠りをさそう
波間に揺れる 夢のつぼみ
どうかこの夜 争い消えて
女神よそっと 瞳をとじて
この小さな 祈りを抱いて
憎しみよりも 愛が残る
朝のひかりを どうか届けて─…
────
歌声は澄んでいて、どこまでも静かで、どこまでもあたたかかった。
子どもたちはまるで魔法にかけられたように目を輝かせ、
村人たちは胸に手を当て、静かに耳を傾けた。
それは、ただの歌ではなかった。
この村に流れた恐れや悲しみ、そして小さな希望のすべてを包みこみ、
夜の大地に染み渡る――まるで、祈りのような歌だった。
最後の弦の音が消えたとき、風がそっと吹いた。
焚き火の炎が揺れ、どこからともなく、ひとつ、白い花が舞い降りた。
サリスがゆっくりと目を開けると、誰もが息を呑み、
言葉を忘れたように、その光景に見入っていた。
やがて、ひとりの子が小さく拍手を打ち、それが波のように広がっていく。
村は、ふたたび拍手と微笑みの音に包まれた。
────
レオは、少し離れた場所からその様子を見ていた。
月の光を受け、竪琴を抱えるサリスの姿は、まるでこの世界に舞い降りた精霊のようだった。
「……やっぱり、すごいよ。お前は」
レオは誰にも聞こえないようにそう呟いた。
────
宴が終わったあとも、村の広場には静かな余韻が残っていた。
誰もが名残惜しむように片付けをし、薪の火が少しずつ燃え尽きていく。
サリスとレオは並んで歩きながら、村の外れへと戻る。
「……ありがとう。とても素敵な歌だった」
レオの言葉に、サリスは少し照れたように微笑んだ。
「この村が、ずっと平和でありますようにって……そう願ったの」
「きっと、届いたさ。あの歌なら」
ふたりは静かにうなずき合い、淡く明るくなり始めた空の下、
しばし無言で、風の音を聴いていた。
その風には、もう寒さではなく、春の兆しのようなやさしさがあった。
