エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
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サリスの歌が、森の奥深くへと静かに、しかし確かに沁み渡っていく。
風が枝を揺らし、葉がざわめき、まるで森そのものが目覚めていくようだった。
淡く漂っていた霧が晴れ始め、空気にふわりと温もりが宿る。
――精霊たちが、息を吹き返す。
そのとき、サリスはふと気づく。
いつの間にか、あれほど強く身体を縛っていた蔦の束がすべて解けていた。
腕も、足も、自由だ。痛みも残っていない。ただ、あたたかな空気が全身を包んでいた。
そしてそれ以上に――
「……これは……」
足元に咲き始めていたのは、雪解けの大地を照らすような、純白の小花。
北の大陸にのみ咲くとされ、精霊たちの祝福の証とされる幻の霊花――「ヴァロ・クッカ」。
その花は、サリスの歌に応えるように、一輪、また一輪と咲き広がっていく。
その美しい光景の中、背後から風を切るように声が届いた。
「……お前の歌に、精霊たちが応えたのだ」
振り返ると、そこに立っていたのはエルフの長・カルヴァス。
彼の背には、静かに佇む数人のエルフたち。長衣をまとい、森そのものの気配をまとう者たち。
その眼差しは、どこまでも静謐で、どこか懐かしいような優しさを帯びていた。
「お前の中には、いまだ失われていない“精霊の響き”が宿っている。
かつて海に生きる民でありながら、人の姿を得て、それでもなお……
精霊と心を通わせる者。それは奇跡に近い」
「……奇跡……?」
サリスは、胸元に手を当てた。
心の奥で、確かに歌が鳴っている。
それは自分が歌っていた旋律。けれど同時に、森が、風が、そして精霊たちが奏でていた音でもあった。
「……お願いです。レオに、会わせてください」
その願いに、カルヴァスは穏やかに頷いた。
「お前たちは、すでに“森の試練”を越えた。
森の心は、お前たちを受け入れた。案内しよう――再会の地へ」
───
一方そのころ。
“記憶の樹”の前で、レオもまた立ち上がっていた。
胸をえぐるような過去の記憶。
戦場での怒声、炎に包まれた村。命令に背いた末の粛清。仲間の裏切り。
何もかもが、かつての自分を縛りつけていた“心の檻”。
だが――
(……違う)
耳に届いたのは、柔らかな歌声。
陰りの中、
サリスの声だった。
その声が、光のように心の闇を裂き、過去の囁きを静かに洗い流していく。
(俺は……生きていていいのか?)
その問いに、彼女の声が、言葉ではなく“存在”で応えてくれていた。
(ああ……俺は、まだ――)
風がそっと吹いた。
そして、聞き覚えのある足音。
「……サリス?」
「レオ!!」
その名を呼び、駆け寄ってくる少女。
レオも、まるで引き寄せられるように一歩を踏み出し、
次の瞬間、二人は抱きしめ合っていた。
息が交わり、鼓動が響き合う。
お互いの存在を、こうして確かめられるという奇跡に、ただ胸が熱くなる。
「……遅くなった」
「ううん。来てくれてありがとう」
どちらともなく顔を寄せ、二人は静かに唇を重ねた。
長く、温かく――
この世界に彼女と二人きりになれたら、と思うほどに。
──そして、そこに静かに近づく影があった。
カルヴァスが、そっと手を掲げる。
「お前たちの心が“ひとつ”であること、森は確かに見届けた。
この地に古くから伝わる“風の
エルフのひとりが、繊細な銀の装飾が施された小さな竪琴を両手で捧げ持つ。
サリスがそれをそっと受け取った瞬間――
キィン……という、美しい音がひとりでに鳴った。
風がその弦を奏でたのだ。
それは、まるで精霊たちが再び“歌”を取り戻した喜びを、世界に伝えるかのようだった。
「……やはり、そなたは“精霊の言葉”を紡ぐ者。
お前の声は、森にも、風にも、命の水晶にも届く。
いずれ村の水晶にも、再び光が戻るだろう」
サリスは竪琴を胸に抱き、微笑んだ。
そしてレオと手を取り合い、確かめ合うように目を見つめた。
旅はまだ続く。
だが今、ふたりの心は確かに繋がっていた。
風がまた、森を吹き抜ける。
それは、彼らを祝福するような、優しい調べだった。
