エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
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レオはカルヴァスに導かれ、森の奥深くへと足を踏み入れた。
そこはすでに常世の境のようだった。
木々は沈黙を保ち、風ひとつなく、空の色も見えない。
けれども、どこか確かな“呼吸”のようなものが感じられる。
大地が息づいている──精霊たちが、彼らを見つめている。
「この先が、“試練の根”」
カルヴァスが指差した先、広がっていたのは巨大な古樹の根が複雑に絡み合った空間だった。
幹は空に届かんばかりに高く、根はまるで神の指のように地中を掴んでいる。
「ここは“記憶の樹”と呼ばれる聖域。時に精霊は、その者の魂に触れ、過去と未来を映す」
レオは無言で頷き、一歩、また一歩と進んでいく。
サリスを取り戻すために。
どんな過去でも、どんな真実でも、彼は目を逸らさない。
そのときだった。
――風が変わった。
まるで“誰かの記憶”が森に溶け出したような、不思議な感覚。
レオの意識は静かに、記憶の樹の中へと沈んでいった。
────
泡が弾ける音、遥か遠くで鯨の唄が聴こえる。
サリスの意識は、やがて一つの情景に引き込まれいった。
それは、かつての海の王国――アトランティス。
けれど、そこに広がっていたのは彼女の記憶にある美しき宮殿ではなかった。
深い暗闇の中、囁くような声が四方から聞こえてくる。
『どうして人間なんかに心を許したの?』
『あの者は、いずれあなたを裏切る』
『お前の声はもう届かない』
『お前は何者でもない、海にも陸にも属せぬ、ただの裏切り者』
「……やめて……」
サリスは耳を塞いだが、声は止まらない。
どこまでもどこまでも、彼女の心の隙間に入り込んでくる。
そのとき、目の前に“少女”が現れた。
それは紛れもなく、幼い頃のサリスだった。
「わたし……?」
小さなサリスは静かに彼女を見上げる。
「どうして、捨てたの?」
「……え?」
「海を。声を。家族を。みんな、置いてきたのに。
それなのに、まだ欲しがるの? “誰かのそばにいたい”なんて」
その言葉は、刃のように彼女の胸を裂いた。
――本当は、自分でもわかっていた。
人間になると決めたあの日。精霊との繋がりが薄れ、父である王とも離れ、
かつての自分は、海の底に置いてきた。
それでも、レオと共に生きると決めた。
「……そうよ。私は捨てた。でも、後悔してない」
「どうして?」
「レオと出会って、私は“ただの姫”じゃなくなったの。
誰かのために泣いたり、笑ったりできる“ひとりの女の子”になれたから。
だから、私は――」
彼女が言いかけたそのとき、あたりを覆っていた黒い霧が裂けた。
光が差し込み、幼いサリスはふっと微笑む。
「なら……信じて。あなたの歌はまだ届く。
精霊たちは、今もあなたの中にいる」
そして、サリスの胸の奥で、何かが目覚める感覚があった。
――あの日、声を失ってもなお、心で歌っていた旋律。
精霊の記憶に刻まれた“祈りの調べ”。
サリスの唇が、自然とその旋律を紡ぎ出す。
静かな歌声が、霧の奥へと沁みわたっていく。
その歌は、誰のためでもない、自分の心を抱きしめるための歌。
それこそが、“心の檻”を解き放つ鍵だった。
