エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
森は沈黙していた。
風ひとつなく、鳥の声さえ消えたように思えた。
レオはなおも地を這うように、蔦に絡め取られていた。
サリスが連れ去られてから、どれほどの時間が経っただろうか。
それでも彼の瞳は消えることなく、森の奥を睨み続けていた。
「……ちくしょう、俺は……まだ……!」
全身に力を込める。
だが蔦は再び絡みつき、動きを許さない。
彼の心を焦がすのは、あのとき触れられなかったサリスの手。
彼女の、叫び。
あの一瞬の悔しさが、胸に深く突き刺さったままだ。
――そのときだった。
「──“Spiritus Caecus Secans”(スピリトゥス・カエクス・セカンス)」
凛とした声が、森の静寂を裂いた。
それは美しく、どこか古めかしい響きだった。
直後、空気が変わった。
目に見えぬ力が旋回し、乾いた葉を巻き上げながら強い風となって吹き抜ける。
「な──っ」
レオの周囲を縛っていた蔦が、次々と断ち切られていく。
まるで鋭い鎌風のような見えざる刃が、大地を切り裂いたのだ。
やがてすべての拘束が外れ、レオは地面に倒れ込んだ。
肩で荒く息をしながら、顔を上げる。
そこに立っていたのは――
長い銀髪を背に流し、緑と灰を溶かしたようなローブを纏った、一人の男性。
その額には三日月を象った蒼い印があり、透き通るような肌に、翡翠のような眼差し。
「……あんたは……」
「私はエルフ族の長、カルヴァス」
男はまっすぐレオを見据えたまま、続ける。
「精霊たちが目覚めようとしている。……その鍵を握る者が、いま森に踏み込んだ」
「ッ…サリスのことか!?」
レオは立ち上がり、前へ出ようとした。
しかし、その体は限界に近かった。蔦の締め付けと、緊張による疲労が重くのしかかる。
カルヴァスは一歩だけ近づき、静かに言った。
「この森は“古き誓約”の地。人間がその境を越えることは稀だ。だが――あの娘は、“精霊の記憶”を揺り動かした」
「……精霊の、記憶?」
カルヴァスはうなずいた。
「彼女の中に眠る“記憶”が、我らを呼んだ。精霊たちは彼女を“かつての声”として認識したのだ」
サリスは拳を握った。
「じゃあ教えてくれ……! サリスはどこに連れて行かれた!? 無事なのか!」
「“聖なる試練の根”……その地で、精霊が彼女の魂を試す。だが、すべての者がそれに耐えられるとは限らぬ」
「そんなの、彼女にさせてたまるか」
レオの瞳に宿る決意を見て、カルヴァスはふっと目を細めた。
「……愚直で、まっすぐな人間だな。だが、だからこそ……あの娘は、お前の名を呼んだのかもしれぬ」
カルヴァスは手を差し出した。
「来るがいい。精霊と対話するには、“心の扉”を開く必要がある。
その覚悟があるのならば――共に聖域の奥へ進もう」
レオはその手を見つめ、しばしの沈黙の後、しっかりと握り返した。
「必ず、サリスを取り戻す。あいつは……俺にとって、すべてだから」
精霊の眠る森の奥――
その先に待つのは、魂の対話か、試練か、それとも……
旅は新たな段階へと進もうとしていた。
