エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
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サリスの歌声が響き渡ると、広場のざわめきは自然と静まり、人々は息を呑んでその音に耳を傾けた。
彼女の声はまるで春の初風のように柔らかく、月夜の波音のように心を揺らす。ミュローズの空を渡る音楽は、女神への祈りであると同時に、一人の少女の決意と希望そのものだった。
サリスは歌いながら、ふと幼き日の記憶を思い出していた。
──海の王国アトランティス。
──水晶と珊瑚の宮殿。
──静かに歌を聴いてくれたイルカたち。
──歌に応えて輝いたクラゲの光。
──人間と心を通わせたくて、でも声が届かずに泣いた夜。
それらは今、すべて“糧”になっていた。
人魚ではなくなっても、
精霊と語り合えなくなっても、
こうして歌うことで、誰かの心と繋がることができる。
“私は、今でも歌える”
その確信が、彼女の声を一層強く、美しくした。
――風が揺れた。
観客の間から、ひとりの子どもがそっと手を伸ばした。
やがて、その小さな手に合わせるように、周囲の人々も胸に手を当てたり、涙をそっとぬぐったりした。
誰もがその瞬間、サリスの歌を「音」ではなく「心」で聴いていた。
そして、舞台の端で彼女を見つめていたレオ。
彼の心もまた、大きく揺れていた。
(…すげぇな。こんなに人を惹きつける歌を、あいつは…)
レオの目には、舞台の上のサリスが光そのものに見えていた。
小さな背中に、誰かを導く力があることを、改めて知った。
「……サリス、お前は俺の
それは声にならない呟きだったが、胸の奥深くで確かな響きを持っていた。
歌の最後、サリスはそっと手を胸に当て、深く祈るように目を閉じた。
(どうか、この声が届きますように)
そして――音が、止んだ。
沈黙。ほんの一瞬の、まるで世界が息を止めたような静寂。
それを破ったのは、ひとつの拍手だった。
そしてもうひとつ、もうひとつ。
やがてそれは連鎖し、広場全体が大きな拍手の波に包まれていく。
「すごい……」
「まるで女神様が降りてきたみたいだ……!」
「ありがとう……ありがとう……!」
拍手と共に、花びらが空から舞い落ちる。
舞台の上に、白い花弁がふわりと落ち、サリスの肩にそっと触れた。
彼女は客席を見渡し、そして――レオの姿を見つける。
視線が重なった。
レオは、何も言わなかった。ただ静かに頷いた。
それが、何よりの言葉だった。
サリスは、涙をこぼしそうになりながら、でも笑った。
ミュローズの音楽祭は、女神の祝福とともに、感動の幕を閉じたのだった。
