エメラルドの檻③ ─Albion─【オリジナル夢】
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ミュローズ音楽祭 広場の舞台
陽が高く昇り、花と音楽の街ミュローズの中心広場は、すでに人々の熱気と期待で包まれていた。
無数の花々が広場を彩り、色とりどりの布が風に揺れている。街じゅうがまるで一つの舞台のように飾り立てられていた。木々にはリボンと花冠が結ばれ、噴水の水さえも祝福するようにきらきらと輝いていた。
そして、やがて──
「皆の者、静粛に」
深く響く声が場を包む。
舞台の中心に現れたのは、荘厳な司祭だった。純白の法衣を纏い、手にはミュローズの象徴である薔薇の杖を持っている。会場に集まった人々が、息を呑んで彼の言葉を待っていた。
「今日という日、私たちは女神ローザの慈しみに感謝し、この恵みの音楽祭を捧げる。――花と旋律を司る女神よ、どうか我らの願いを聞き届け給え」
司祭の言葉が静かに空へと昇っていく。
すると、その瞬間――
広場の端から、ゆっくりと音楽が流れ始めた。
最初は静かに、そして少しずつ波のように膨らんでいく音。
リュートとフルートの調べが重なり、ハープの優しい和音が花の香りと共に空へ舞い上がる。
そして、観客の視線が一斉に舞台の脇に向けられた。
そこに現れたのは、白い衣装に身を包んだ一人の少女。
サリスだった。
風に舞う薄布のドレスは、まるで彼女自身が花精霊のようにも見えた。ドレスの胸元には繊細な銀の刺繍がきらめき、彼女の髪には――レオから贈られた真珠とアクアマリンのバレッタが、朝の陽を受けてひときわ輝いていた。
観客の誰もが、その姿に言葉を失っていた。
舞台の中心に立つサリスの頬には、うっすらと緊張の色が浮かんでいる。けれど、その瞳の奥には、確かな決意があった。
その後ろ、少し離れた場所には――白の礼装を着たレオが静かに佇んでいた。
彼は観客ではない。
ただ一人、サリスの歌を、彼女のすべてを見守るためにそこにいた。
サリスは一度だけ、彼の方を見た。
レオは静かに、確かに頷いた。
音楽が、導くように一つのフレーズを奏で始める。
──その瞬間。
サリスが、歌い始めた。
————
Soléra venílun, tharae endomé,
(陽の女神よ、静けき大地に降りたまえ)
Valené mira, aurélien songa.
(黄金の果実、祝福の歌)
Elyssa terran, lauréa et suvena,
(緑の女神よ、実りと平穏をもたらし、)
Rosa, nostra domá silen.
(女神ローザよ、我らの心の家よ)
Miruén salla, naevé falthim,
(風が運ぶ、実りの香り)
Yllara fiol, terra calithen.
(野の精霊、笑みを浮かべて舞い踊る)
Saenna moriel, ilya veyrén,
(森のざわめき、水のささやき)
Noéris, elya, in sylfarim.
(いま、全てが調和の中にある)
Etha léra, numa dellorien.
(女神よ、この地を抱きしめ給え)
Séralis thu, domé na elurra.
(水も炎も風も、大地の子として)
Maenna sel’via, thalar ien.
(命の巡りは、あなたの旋律)
Rosa, amar théra.
(いと、慈悲深きローザよ、永遠の女神よ)
————
まるで海の底から湧き上がる泡のように、
あるいは春の森に差し込む光のように。
その声は、澄みきっていて、どこか懐かしくて。
言葉よりも深く、旋律だけで人の心を包み込むような、魂の歌だった。
広場を包んだ風が、彼女の声と共に流れた。
そして、その歌声は、
サリスの過去と、
レオとの旅の思い出と、
ここにいるすべての人の心に、静かに、しかし確かに届いていった。
──それは、ひとりの少女が人魚だった頃から持ち続けた“祈り”そのものだった。
人々は、ただ静かに聴き入っていた。
誰もが、そこに“女神”の微笑みを見たような気がして。
そして祭りの幕は、静かに、しかし確かに、感動の中心へと進んでいく――。
