エメラルドの檻② ─Aura─【オリジナル夢】
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それは、ヴェルリナの街での出来事だった。
「聞いた? 東門のあたりで盗賊団が討たれたらしいのよ!」
「うそっ、しかもたった一人でって……ほんと?」
市場の片隅、香草の匂い漂う屋台の間からそんな噂が聞こえてくる。
ヴェルリナの街は活気に満ち、普段以上に浮足立っていた。
その話題の中心にいたのは、ひとりの青年――レオだった。
「ほら、あの人じゃない?……あそこのレンガ色の髪の男性よ」
街の女性たちは、通りの向こうを歩くレオにちらちらと視線を送り、時折、頬を染めながら何やらコソコソと囁き合う。
サリスと並んで歩く彼は、まるで何も気づいていないかのように平然としていたが――その空気は確実に熱を帯びていた。
そして、ついに数人の若い女性が彼に駆け寄ってきた。
「あ、あのっ! あなたが……たった一人で盗賊を倒したという騎士様ですか!?」
「え? いや、俺は別に……」
レオが否定する暇もなく、女性たちは顔を輝かせた。
「噂で聞いていたよりずっと素敵だわ……!」「なんて逞しいお体つきなの!」
キャーキャーと黄色い声が上がり、あっという間に彼の周囲は華やかな熱気に包まれる。
「よかったら、お茶でもご一緒に……♡」
一人の女性が甘えた声で誘いかけ、他の女性たちも次々とレオの腕に絡みついた。
まるで、すぐ隣にいるサリスの存在など見えていないかのように。
――その時だった。
「……あなたたち! いい加減にしなさい!!」
鋭く、しかし震えるような声が響いた。
レオも、取り巻いていた女性たちも、驚いてサリスの方を振り向いた。
「彼が困っているのが見えないの!?」
その瞳は真っ直ぐで、少し潤んでいて、でも確かに怒っていた。
「馴れ馴れしく彼に触らないで!!」
もう行きましょう!と、サリスはレオの腕をぐいっと引き寄せると、呆然と立ち尽くす女性たちを後ろに残し、通りを早足で離れていった。
レオは引かれるままに歩きながら、ぽつりとつぶやいた。
「……驚いた。お前、そんな声も出せるんだな」
返事はなかった。
人通りのない小路に入っても、サリスは無言のままレオの腕を掴み続けていた。彼女の頬は赤く、怒っているのか恥ずかしいのか、そのどちらともつかない。
人魚から人間になって、もうすぐ三ヶ月。
かつて王女として気品と冷静さを纏っていたサリスは、今やこうして感情をあらわにすることもできるようになった。
“サリスティア王女”ではなく、“ひとりの女の子、サリス”として。
それがレオにはたまらなく嬉しかった。
「……俺は、お前しか見えてないよ。サリス」
ようやく、サリスの歩みが止まる。
「……もう、またそうやって誤魔化すのね」
「誤魔化してないし、嘘じゃない。事実を言っただけだ」
レオの言葉に、サリスはそっと振り返った。
ラピスラズリのような瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
「不安にさせて、ごめん。サリス」
そのままレオは、彼女をやさしく抱きしめた。
何も言わずに、サリスも彼の背に手を回し、そっと抱きしめ返す。
そして――小さく、笑った。
「……ブルーベリータルトを奢ってくれたら、許してあげるわ」
「ブルーベリータルト?」
思わず聞き返すレオ。
今度は悪戯っ子のような顔で彼女は笑っていた。
「さっき、通りで素敵なティーハウスを見かけたの。…ね、良いでしょ?王子さま?」
「もちろん。お安いご用さ。俺だけのお姫さま」
二人は触れるだけのキスを交わし、静かに手を繋いだ。
先ほど通り過ぎた、街角のティーハウスへと向かう。
午後の陽はあたたかく、街の喧騒から少し離れたその道には、ゆっくりとした時間が流れていた。
