エメラルドの檻② ─Aura─【オリジナル夢】
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「きゃーっ!いやッ、たすけて、パパーッ!!」
甲高く響いた少女の悲鳴が、森の中に裂けるように広がった。鳥たちが一斉に飛び立ち、空気が一瞬で緊迫に満ちる。
レオの表情が一変し、険しい目で音のした方へと走った。彼のブーツが落ち葉を蹴り上げ、腰の短剣をすばやく抜く。木立を抜けたその先、馬車の扉が半ば開かれ、黒ずくめの盗賊が中へと手を伸ばしていた。
「チッ……!」
レオは舌打ちすると、迷いなくその男の背後に飛びかかった。音もなく近づいたレオの腕が、男の首根っこを掴んで馬車から引きずり出す。
「うげッ!?」
その声も最後まで出せぬまま、男はレオの拳を顔面に受け、派手に後ろへ吹き飛んだ。木の根元に叩きつけられた男は、がくりと動かなくなる。
「だ、だれ……!?」
馬車の中から怯えた声がした。中にいたのは、金髪の幼い少女と、上品な服を着た中年の男性。少女は泣きじゃくり、父親と思われる男の胸にしがみついている。
「鍵をかけて、窓から離れろ!」
レオの声が鋭く響いた。
父親は咄嗟に頷き、扉を閉めて鍵をかけると、娘を抱きかかえながら車内の隅に身を寄せる。
一方その頃、森の影から現れた残りの盗賊達が、レオに気づいて集まってくる。
「なんだてめぇ……邪魔すんじゃねぇよッ!」
「構うな、やっちまえ!」
三人の盗賊が一斉に剣を抜いて突進してくる。だがレオは一歩も退かない。足元の小石を蹴り上げ、前方の男の顔に命中させて視界を奪うと、間髪入れず一人目の脇腹に肘を叩き込む。苦悶の声を上げて崩れた男を盾にするように回し、他の二人の攻撃をいなす。
「──遅い。」
レオは低く呟きながら、体を回転させると、後ろの男の膝を蹴り砕き、悲鳴を上げて崩れた瞬間に反転。残る一人の剣をすんでのところで避け、間合いを詰めて一撃の拳を顎に突き上げる。
バキッという音と共に、男の身体がくの字に折れ、そのまま地に落ちた。
「ふぅ……」
息を吐くレオの額には汗が滲んでいるが、その眼差しは変わらず冷静だった。あたりに転がる盗賊達。彼はその辺に落ちていた太い縄を拾い、一人ずつ手際よく縛っていく。もがく者には容赦なく膝蹴りを叩き込み、抵抗を封じた。
そのとき、馬車の扉が開き、金髪の少女が父親に手を引かれておずおずと姿を現した。少女の頬は涙で濡れ、震える唇で言葉を紡ごうとしていた。
「もう大丈夫だ。」
レオの静かな声が、二人に安心を与えるように響いた。
そのときだった。栗色の髪が風に揺れ、サリスが走ってくる。
「レオッ!」
レオが振り向いた瞬間、サリスは彼に駆け寄り、その身体に触れた。頬、腕、肩、手──慎重に、まるで壊れものに触れるように。
「怪我は?大丈夫?」
「……あぁ、大丈夫、何ともないよ。」
くすぐったそうに笑うレオ。その声には安堵がにじんでいた。
馬車の側で、父親が深々と頭を下げた。
「助けていただき、本当にありがとうございました……!命の恩人です……もしお二人がいなかったら、我々は──!」
「俺たちはたまたま通りかかっただけだよ」
「ご無事で何よりです」
男性は礼儀正しく被っていた帽子を脱ぎ、レオとサリスに改めて向き直った。
「私はウィリアム。商人をしておりまして。こちらは娘のアナベルです」
「こ、こんにちは……おにいちゃん、おねえちゃん……たすけてくれて、ありがとう……」
アナベルはウィリアムの服の裾をぎゅっと掴みながら、遠慮がちに言った。怯えきった目に、わずかな安堵が宿る。
「俺はレオ。ただの旅人だよ」
「サリスです。私も彼と一緒に旅をしています」
「旅の方でしたか……それにしてもなんとお強い……!」
ウィリアムは、心底感嘆した様子で二人を見つめた。上等な馬車、細工の美しい衣装──見るからに裕福な出自だ。盗賊が狙った理由も、なるほどと思える。
「まさか……盗賊に狙われるなんて。護衛をつけておくべきでした……アナベルにも怖い思いをさせてしまい……。私の判断が甘かった……。今はヴェルリナの街に戻る途中だったのですが……」
それを聞いて、サリスがそっとレオに耳打ちした。
「ヴェルリナって、私たちが次に行こうとしてた街よね?」
「あぁ、そうだな……」
レオは少し考えてから、真っ直ぐウィリアムを見る。
「よかったら、俺たちも一緒に連れて行ってくれないか?」
「よ、よろしいのですかっ!」
ウィリアムの顔が一気に明るくなる。もはや目を輝かせていた。
「もちろんです!ぜひともご一緒させてください!」
「安心してください、私たちも同じ道ですし」
サリスが柔らかく微笑むと、アナベルの目がぱっと花が咲くように見開かれた。
「なんと心強い……!なんとお礼を言ったらいいか……」
「もともとヴェルリナに向かってたから、気にしないでくれ」
レオがそう言うと、ウィリアムは感極まったように彼の手を両手で握り、何度もお礼を繰り返す。
「ありがとう……本当に、ありがとう……!」
サリスはしゃがみ込み、女の子と同じ目線で優しく声をかけた。
「街までよろしくね?アナベルちゃん」
アナベルは少し驚いたようにまばたきし──それから、ようやく笑った。
「……うん!」
森の風が吹き抜け、揺れる葉音の中に微かな笑い声が溶けていく。
「……それに、こいつらもこのまま放っておけないしな」
レオは縄で縛られた盗賊達を見下ろした。数人がなおも汚い言葉で喚いていたが、レオが一歩踏み出すと──その鋭い眼光に射抜かれ、全員がピタリと黙り込んだ。
静寂が戻った森の中、彼らの新たな旅の一行が、今まさに動き出そうとしていた。
