エメラルドの檻② ─Aura─【オリジナル夢】
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― 夜の森にて ―
星の瞬く夜。森の静けさに包まれながら、二人は焚き火の前に腰を下ろしていた。
焚き火の灯りが、揺れる炎と共にレオの横顔を照らしている。
サリスは黙って、その横顔を見つめていた。
彼が何かを話そうとしていると、すぐにわかったからだ。
沈黙の中、レオが口を開いた。
「サリス……お前は俺に過去を打ち明けてくれたよな。
だから今度は俺の番だ。…聞いて、くれるか?」
サリスは、静かに頷いた。
「……俺が、なんで旅に出たのか。なんで、今こうしてここにいるのか。ずっと隠してきたことだけど、もう……お前には全部、話したい」
火がパチリと弾けた。
レオの目が、ゆっくりと遠い過去を見つめるように細められる。
「――ここから遠く離れた街で、俺は生まれた。いや、正確には……生き延びていたって方が正しいかもしれない」
「孤児だった。名前も、家族も、何もなかった。ただ飢えて、寒くて、誰にも名前を呼ばれない毎日だった」
「生きるために、盗んで……追われて、逃げて、また盗んで。そんな日々を繰り返してた」
「ある日、とうとう捕まった。追い詰められて、何もかも終わったって思った」
レオの目が揺れる。
サリスは何も言わず、じっと耳を傾けていた。
「捕まえたのは、一人の兵士だった。ベルトホルトって名前の、無骨な男だった」
「俺は牢に放り込まれると思ってた。だけど、あの人は俺を見て……“お前、剣を握ったことがあるな”って言ったんだ」
「……そんなわけない。盗賊まがいのガキだぜ? それでもあの人は信じた。“何かを守りたいと思ったとき、お前はきっと強くなれる”って」
焚き火の灯りが、彼の瞳に反射して揺れた。
「それからは、あの人のもとで訓練を受けた。初めて、名前をもらった。“レオ”。短いけど、俺にとっては重い名前だった。命みたいなものだ」
「俺は変わりたかった。何もなかった自分に、意味がほしかった。だから必死だった。……そして、兵士になった」
「正義を信じて、国を守ることに誇りを持ってた。けど……」
そこから、言葉が少し詰まる。
「ある日、命令が下った。隣国との小競り合い。正義なんて言葉は、もう通用しない場所だった。上からの命令は、“村を捨てて、敵の拠点を潰せ”って」
「でもそこには民がいた。子供も、女も、何もできない人たちが……」
レオの手が、焚き火の薪をぎゅっと握った。
「俺は命令を拒んだ。命を懸けて、村を守ろうとした。けど……敵は予想以上に多くて、俺の部隊は壊滅した。……守るはずだった民も、結局……」
声が震える。
「しかも、上司は全てを俺に押しつけた。命令違反、作戦失敗、責任は全部……俺に」
「責められていた俺を……かばってくれたのは、ベルトホルトだけだった。だけど……」
焚き火が大きく弾け、二人の影が揺れる。
「……ベルトホルトは、“反逆者をかばった”って粛清された」
レオは深く俯いた。
「……全てが崩れた。正義なんて嘘だった。信じたものが一つずつ消えていった」
「だから逃げた。何もかも投げ出して、無我夢中で……どこか遠くへ行きたかった。何も思い出さない場所に」
少しだけ風が吹いた。森の木々がざわりと揺れる。
「逃げ込んだ先が、小さな村だった。シトロンっていう、地図にも載らないくらいの場所だ」
「倒れていた俺を拾ってくれたのが、ローレンスって爺さんと、その奥さんのアンバーだった」
「俺がどんな過去を持ってるか、訊かずに……あの人たちは、ただ“ここにいていいんだ”って言ってくれた」
レオは、少しだけ微笑んだ。
「ローレンスが言ったんだ。“レオ、旅に出てみる気はないか?”って」
「“まだ見ぬ世界を、自分の目で見てこい。誰かの命令じゃなく、自分の意思で進め”って」
「……それが、俺の旅の始まりだった」
彼はそっと焚き火を見つめる。
「そして……サリス。お前と出会った」
焚き火の影が、サリスの瞳に映っている。
レオの声が、少しだけ震えていた。
「こんな俺だけど……一緒にいてくれて、ありがとう」
彼は顔を伏せたまま、そっと呟くように言った。
サリスは何も言わず、そっとレオの手を取った。
手のひらから伝わる温もりが、どこまでも優しかった。
「レオ……私はあなたに出会えて、本当に良かったって思ってる」
夜の森は静かだった。
ただ焚き火の灯りと、二人の間のぬくもりだけが、そっと寄り添っていた。
