エメラルドの檻② ─Aura─【オリジナル夢】
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街外れの宿の一室。
灯火が揺れる中、レオはベッドの縁に腰を下ろしていた。
左肩には白い布が巻かれ、そこにぽつぽつと血が滲んでいる。
痛みに顔を歪めることなく、ただ、じっと目の前のサリスを見つめていた。
「ごめんなさい、ちょっと沁みるかも」
そう言いながら、サリスはそっと薬草の絞り汁を布に垂らした。
冷たい感触が肩口に染み渡り、レオの顔がわずかに引きつる。
「……ん、平気だ」
サリスはその顔を見て、ふっと優しく笑った。
けれどその笑顔には、どこか影が差していた。
布を巻き直し、結び目を整えると、彼女は小さく息を吸い込んだ。
そして、震えるような声で口を開いた。
「ねぇ、レオ……話さなきゃいけないことがあるの」
レオは黙って、彼女の顔を見る。
「さっきの彼、アラリオンは……私の、元婚約者だったの」
言葉を発した瞬間、彼女の肩が小さく震えた。
うつむいたまま、ぽつりぽつりと語り出す。
「まだ私が、王族の娘として海の底に暮らしていた頃――
アラリオンとは、よく一緒に泳いだの。
海の音を聞いたり、珊瑚の群れを追いかけたり……
子供の頃からの友達で……そして、大切な人だった」
サリスは手のひらを見つめた。
そこには、薬の匂いと、レオの血の温もりが残っていた。
「でもそれは、家同士が決めた婚約でもあって……
あの頃の私は、自分の気持ちなんてよくわかってなかった。
ただ、アラリオンが優しかったから。
一緒にいれば安心できたから。
だから“これが愛なんだ”って、思い込もうとしてたの」
ゆっくり顔を上げる。
レオの琥珀色の瞳が、ただ彼女を見ていた。
責めるでもなく、拒むでもなく――まるで、受け止める準備をしているように。
「でも、私が地上に連れ去られて、全部が変わった。
あの恐ろしい日々の中で、私を守ってくれたのは……あなただった」
声が震える。けれど、目はまっすぐだった。
「アラリオンには感謝もしてる。たぶん、今でもどこかで……優しさを思い出せる気がする。
でもね、レオ。私が“恋”を知ったのは、あなたと出会ってからなの。
本当に心が惹かれて、こんなにも誰かを想って、泣いたり笑ったりできたのは、あなただけ」
レオは静かに、彼女の手を取った。
「……話してくれてありがとうな、レオ。
あいつのことを聞いて、少し複雑だったけど……
今、お前が俺の隣にいてくれる。それがすべてだ」
サリスの目に涙が浮かぶ。
「黙ってて、ごめんなさい。傷つけたくなかったの。けど……それでも隠してたのは、私の弱さ」
サリスは彼女の額にそっと唇を寄せた。
「俺は、サリスのすべてを受け入れる。過去も、不安も、そしてこれからも」
ふいに灯火がゆらりと揺れ、部屋の空気がやわらかく包まれる。
サリスはレオの胸に身を預け、目を閉じた。
二人の静かな時間が、今、またひとつ――深く結ばれてゆくのだった。
