エメラルドの檻② ─Aura─【オリジナル夢】
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夕暮れの街は、昼間とは違った顔を見せていた。
屋台の灯りがぼんやりと揺れ、行き交う人々の影が細く長く伸びる。
サリスとレオは、中央広場の噴水の縁に腰かけて休んでいた。
サリスは手に入れたばかりの櫛を嬉しそうに見つめ、レオは彼女の笑顔に目を細めていた。
そんな穏やかな時間のなか――
すっと、風が吹いた。
それは、街の喧騒のなかにまぎれた、ひどく静かな風だった。
「……サリス?」
低く響く声に、二人の視線が同時に向けられた。
そこに立っていたのは、一人の男。
フードを深くかぶり、表情は見えない。
だが、その佇まいはどこか只ならぬ気配をまとっていた。
「お前……誰だ?何故、彼女の隣にいる?」
その声に、レオは立ち上がり、サリスの前へと一歩出る。
「誰だって……いきなり何のつもりだ?」
すると、サリスがレオの肩越しに男を見つめ、声を震わせた。
「……あなた……もしかして、リオン…?」
男の身体がわずかに揺れた。
「"リオン"…か」
そして――
「懐かしいな、その呼び名……。そうだ、僕の名はアラリオン」
ゆっくりと、男はフードを下ろした。
金の装飾が縫い込まれた海衣の下に隠されていたその顔が、夕日を浴びてあらわになる。
青みがかった黒髪が風に揺れ、
その瞳は、まるで冷たい月光のように金色に輝いていた。
「君の婚約者だ」
その言葉は、空気を凍りつかせるほど、はっきりと響いた。
レオの眉がぴくりと動く。
サリスは言葉を失い、ただアラリオンを見つめ返す。
「君が……人間になったと聞いて、信じられなかった。
まさか本当に……ここまで来ていたとはな」
アラリオンは、ゆっくりと歩を進めながら続けた。
「僕はずっと、君を探していた。海の底から、あらゆる伝承を辿って。
君が人間に囚われたと聞いたとき……胸が張り裂ける想いだった」
サリスの表情が痛みを宿す。
「えぇ……囚われて、傷つけられた。
でも……でも、悪い人間ばかりじゃないの。
レオに出会って……助けられて……私は――」
「助けられた?」アラリオンが鼻で笑う。
「愚かな考えだな。人間は醜い。
僕達の海を汚し、自らの欲望のために同胞を攫い、弄び、殺す。
…そんな存在に心を許したのか? サリスティア」
彼の声に怒気がこもる。
「君は……あの美しい銀の髪も、加護も、すべてを捨てて……そんな男と共にあるために?」
レオが一歩踏み出す。
「勝手な決めつけはやめろ。サリスは自分の意思でここにいるんだ」
その言葉に、アラリオンの金の瞳がぎらりと光る。
「そうか……ならば――」
彼は腰に差していた細身の剣を静かに抜いた。
鋭く光る刃が、夕闇に照らされる。
「……悪いが、彼女を返してもらう。
僕は、君が汚れた人間のものになるなど……耐えられない」
「僕と戦え、人間」
風が吹く。緊張が空気を裂いた。
いつの間にか人の気配は消えていた。
レオは背中に手を回し、自らの短剣の柄に触れる。
サリスは二人の間に立とうとするが、アラリオンの気迫に、動けない。
「やめて、お願い……リオン、あなたは優しい人だった……!」
「優しさでは守れない。僕は――君を取り戻すためにここにいる!」
「……だったら俺は」
レオは静かに短剣を抜き、アラリオンに向き直った。
「サリスを守るために戦う」
視線が交わる。
黄金の瞳と、琥珀色の瞳。
その間にあるのは、過去と現在、海と陸、信頼と執着。
やがて、アラリオンの足が一歩、踏み出された。
――戦いの火蓋が、切って落とされる。
