エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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東の空がほのかに赤く染まり始める頃、サリスとレオは地上の砂浜に戻ってきていた。
夜明け前の静寂に包まれた海辺は、まるでふたりの帰還を祝福するかのように、優しく波音を響かせている。
足元の砂を踏みしめながら歩いていたサリスが、ふと足を止めた。
「——あっ」
驚いたような小さな声に、レオはすぐに振り返る。
「どうした?」
サリスは両手でそっと自分の髪をすくい上げた。
それはもう、かつてのような銀の光を放ってはいなかった。朝日を受けてほんのりと色づいたその髪は、柔らかい栗色——まるでレオの髪色に似ていた。
「髪が……変わっていくわ。瞳も、きっと」
彼女の瞳は以前のような透き通る青灰ではなく、今は深く澄んだ海のような青になっていた。
人魚としての加護が、静かに抜け落ちていく証——それは、別れと始まりのしるしだった。
「……海を離れたことで、精霊の加護が消えたのね」
彼女の声には、どこか寂しさと決意が混じっていた。
レオはしばらく黙っていたが、やがてぽつりと問いかける。
「……後悔してる?」
サリスは、そっと首を横に振る。
「いいえ。後悔なんてしてないわ。少しだけ寂しいけれど……でも、レオがいるもの」
そう言って微笑むその顔は、どこか吹っ切れたように、そして心から穏やかだった。
それにね、と彼女は少し照れくさそうに続ける。
「この髪…… レオとお揃いみたいで、ちょっと嬉しいの」
レオは、その言葉に不意を突かれたように目を見開き、次第に頬を赤く染めた。
「そ、そうか……」
照れくさそうに頬をポリポリと掻き、ぎこちなく返事をしながらも、彼の瞳には温かな光が宿っていた。
しばらくの沈黙。
けれどその静寂を破ったのは、レオの、少し震えた声だった。
「…… サリス、聞いてくれるか?」
彼はサリスの前に立ち、まっすぐにその瞳を見つめる。
海の底での試練を思い出し、今この瞬間が何よりも尊く、かけがえのないものだと痛いほど感じていた。
「お前がいなくなりかけたとき、俺は……怖かった。こんなにも、自分が弱いなんて思わなかった」
サリスは静かに頷き、耳を傾ける。
「だけど気づいたんだ。俺はずっと、お前に支えられてきた。
お前の歌声も、笑顔も、優しさも……全部、俺の中で生きてる。
これから先も、ずっと一緒に生きていきたい。—— サリスと、これからの人生を歩みたいんだ」
その真剣な言葉に、サリスの瞳がゆっくりと潤んでいく。
「……私もよ、レオ」
彼女はふわりと笑った。あの、海底の王宮でも、波の上でも見せてくれた、光のような微笑みだった。
「私もね、あなたと出会って、自分の心に嘘をつきたくないって思えた。
あなたが手を伸ばしてくれたから、私はここにいる。
これからも、ずっと—— レオの隣にいたいの」
ふたりの言葉が静かに空へ溶けていく。
そして——どちらともなく、顔を近づけた。
朝焼けがふたりをやさしく包み込む中で、初めてのキスが、そっと交わされた。
寄せては返す波の音の奥に、確かに聴こえた気がした。
遠い海の底から届く、精霊たちの祝福の歌声が——。
