エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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神殿の扉が軋むような音を立てて開かれた。冷たい潮の香りと共に、深い闇が広がっていた。まるでこの世の理から切り離された異空間。そこは「試練の間」と呼ばれる、魂そのものが問われる場所だった。
「人の子・レオ。ここより先は試練の間、逃げることは許されません。それでも進みますか?」
風の精霊が凛とした声で問いかけた。
レオは静かに頷いた。
「俺は……逃げない。彼女を助けたい。彼女のためなら、どんな試練も受けてみせる」
精霊は微笑み、レオの背中を押した。次の瞬間、レオの身体は柔らかな光に包まれ、気がつくと彼は無人の空間に立っていた。
天も地もなく、ただ白い霧が漂う無限の空間——そこで、試練は始まった。
第一の試練:迷いの幻影
レオの前に、過去の仲間たちの姿が現れた。
「……お前のせいだ、レオ」
「俺たちが死んだのは、お前が命令に背いたからだ」
「仲間を守るって言ったくせに、守れなかったじゃないか」
声はあの日と同じだった。戦場で、命令を無視して村を守ろうとしたレオに対して、上官も仲間も罵声を浴びせた。裏切られたのは、自分の方だったはずなのに——
「……黙れ」
レオは拳を握った。胸に押し込めた後悔と怒り、そして悔しさが押し寄せる。だが、ここで過去に縛られてはいけない。
「俺はあのとき、自分で選んだ。正しいと思った道を……! お前たちにどう思われようと、俺は後悔しない」
仲間たちの幻影は霧となって消えていった。
第二の試練:恐れの牢獄
次に現れたのは、檻の中のサリスだった。
無機質なガラスの箱に閉じ込められ、怯えた目でこちらを見ている。まるであの時のように——最初に出会ったあの日の、あの姿。
「……また助けられなかったら、どうする?」
レオの中に声が響いた。
「自分はただの人間だ。王でもなければ、魔法使いでもない。何ができる?」
震える膝を押さえつけながら、レオはゆっくり歩を進める。
「何もできないかもしれない。でも、だからこそ俺は、あきらめないって決めたんだ」
彼の声が響くと同時に、ガラスの檻は粉々に砕け、サリスの幻影もまた消えていった。
光の粒となって消える直前、
——"ありがとう。信じているわ"
という言葉を残して。
第三の試練:命の選択
最後の間には、床に横たわるサリスと、手にした一本の小瓶——「命の水」。
だが、その傍らにはもうひとつの幻影が立っていた。彼女の父、海王オーケアノス。
「そなたが朽ち果てたとき、娘は何百年と孤独と悲しみに苛まれることになる。恐らく、一生傷が癒えることはないだろう。
そなたが人間で、サリスティアが人魚である限り、それは決して避けられない運命なのだ」
…さぁ、答えよ人間。
そなたと共に生きることが、娘の幸せだと本当に言えるのか?
王の威厳のある声が、暗闇の中で何重にもなって響き渡る。
レオは唇を噛みしめた。問いかけは重い。まるで魂を突くようだった。
だが、彼は迷わなかった。
「……わからない。だけど彼女が選んだのは俺で、俺が選んだのは彼女だ。例え限られた時間だとしても、俺の我儘だとしても、俺はサリスと共に生きたいと、そう決めたんだ。
——この命の水を、サリスに!」
彼が瓶を掲げると、光が炸裂した。
静寂が満ちる空間で、全ての幻が消え去る——
—————
———
—
レオが目を開けると、そこは玉座の間だった。サリスは玉座の前の寝台に人魚に戻った姿で横たわっている。彼は彼女に命の水を飲ませた。
しばらくして、サリスがゆっくりとまぶたを開けた。
「... サリス!」
——生きてる!笑ってる……!
「…… レオ……夢の中で、ずっと見ていたわ……。わたしのために、戦ってくれたのね。ありがとう」
でも...。
と、彼女は俯いた。
「体が治っても、きっとまた繰り返してしまう……。次は……死んでしまうかもしれない」
「……そんな……どうしたら……」
レオは思わず涙を浮かべ、彼女の手を握った。
それを見た王は、静かに口を開いた。
「サリスよ。人魚であることを捨て、人間として生きる道もある。その選択がそなたに苦しみをもたらさぬのならば——」
神殿に静けさが戻る。
だが、二人の心には、未来へ向けた新たな希望の灯がともったのだった。
