エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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サリスは突然、高熱を出して倒れた。
身体は触れただけで熱く、苦しそうに荒い息をしている。手を握るレオの指先にすがりつくように力を込めたのは、意識がかすかに残っていた証だった。
レオは、何もできずにその手を握り返すしかなかった。
薬屋で手に入れた人間の薬は、何の効果も見られない。
(どうして……こんなことに……)
自分を責める声が胸に満ちていく。
「彼女が人魚だから」――そんな単純な理由が、今も彼の頭の中で形にならず、ただ胸を引き裂いていた。
そして、窓が開き、柔らかな風が室内に入り込んできたかと思えば、
それはふわりと宙に舞う淡い光の粒となって姿を変えた。
「風の、精霊……?」
レオの問いに、その光はふわりと揺れながら、はっきりとした声で語りかけてきた。
「サリス様のお命が危険です。海王様が貴方とサリス様にお話があるとのこと。……海底の王都《アトランティス》まで、急ぎましょう」
「海の……王?」
精霊は頷く。
レオは、ぐったりと自分に抱かれるサリスを見つめた。
「でも、海底なんてどうやって……人間の俺には――」
「安心してください。私の力をお貸しします。目を閉じて……心に“海”を描くのです」
レオは促されるまま目を閉じ、サリスをしっかりと抱き締めながら、心にかつて見た海の光景を描いた。彼女と一緒に眺めた、あの煌めく水面を――
すると、足元が淡く輝き、空間が揺れた。
次の瞬間、レオは全身に柔らかな水圧を感じていた。
目を開けると、そこは見渡す限りの深い青だった。
けれど不思議なことに、呼吸もできている。サリスも、少し苦しそうではあるが静かに胸を上下させていた。
「さあ、こちらです」
風の精霊が導くその先――
巨大な渦が海を割り、そこに光の道が現れる。海底まで続くその道を進むと、まるで夢の中の世界のような光景が広がった。
巨大な水晶でできた柱。真珠のように滑らかな宮殿の壁。
珊瑚で彩られた街並み。魚たちがまるで精霊のように踊っていた。
そして、たどり着いたのは玉座の間。
そこに、重々しくも威厳ある存在――海王が座していた。
「そなたが、その子と共にいた人間か」
「……はい。レオと申します」
「我が名はオーケアノス。この世界の海を司る王だ。まずは、娘を悪党どもから救ってくれたこと……礼を言おう」
「娘……?」
レオは一瞬、理解できずサリスを見下ろした。
彼女は変わらず静かに眠っていたが、その横顔は、どこか気高く、誇り高きものに見えた。
「その子は我が娘にして、海底国・アトランティスの正統なる王位継承者、サリスティア王女だ」
「"サリスティア"…… サリスが、王女……?」
信じられなかった。いつも無邪気で、世間知らずで、でも誰よりも優しくて純粋なサリス。彼女が、王の血を引く存在だということに、レオは言葉を失った。
オーケアノス王は続けた。
「そなたがすべてを知っていた上で、娘と共にいたのならば、我は怒り狂っていたであろう。……だが、何も知らず、それでも傍にいてくれたこと。娘が人間を信じ、愛したこと。それが、たとえ愚かでも、我の心を動かした」
オーケアノス王の声が、静かに沈むように語る。
「人魚は五百年の年月を生きる。だが人間は、その五分の一にも満たぬ命しか持たぬ。
その違いは、いずれ必ず悲劇を招く……。それでも、そなたは娘と共にいたいと願うか?」
レオは、短く息を吸い込み、そして頷いた。
「……はい。たとえどんな未来が待っていても、サリスと共に在りたい」
オーケアノスの眼差しが、深い海のように静かに揺れた。
「ならば与えよう。試練を――アトランティスに古くより伝わる、魂の深奥を試す神殿の儀式を」
「それを越えたとき、命の水が与えられる。……それを娘に飲ませれば、命は救われるだろう」
「……わかりました」
レオはもう、迷わなかった。
どれほど過酷な試練であろうとも、サリスを救えるのなら――すべてを懸けると、心に誓った。
