エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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コラーリの城下町の広場は、陽気な人々の声で賑わっていた。
屋台から漂う甘い焼き菓子の匂い、金細工の店の窓に反射する光、楽師が奏でる笛の音——
サリスにとっては、すべてが鮮やかで夢のようだった。
そんな通りの一角、レオがふと立ち止まった。
「サリス、ちょっと待ってて。買いたいものがあるんだ。すぐ戻るから」
「うん、わかったわ。……あ、急がなくてもいいのよ。ここ、音がいっぱいで楽しいから」
サリスは笑って答え、鼻歌を口ずさみながらその場に留まった。
道ばたの小鳥を眺めたり、店先のガラスに映る自分の姿にいたずらっぽく笑ってみたり——
ごく自然に「待つこと」を楽しんでいた。
……そのときだった。
「ねぇお嬢さん、こんなとこでひとり?」「いっしょに遊ばない? 君、綺麗だしさぁ」
男が二人、品のない笑みを浮かべて近づいてきた。
服装は洒落ているが、目つきが鋭く、声には軽薄さが滲んでいる。
サリスの鼻歌が止まった。
心臓の鼓動が、冷たい音を立てる。
——布を剥がされた檻の中。
——怒号。
——乾いた空気。
——あの時の、人間の目。
声が出なかった。
体がこわばる。呼吸の仕方さえ忘れてしまう。
「どうしたの、黙っちゃって」「怖がらなくていいって、ちょっとお喋りするだけ——」
「離れろ。今すぐだ。」
その声は、空気を裂いた。
レオだった。
サリスの前に立ちはだかるようにして現れた彼の顔は、普段の穏やかさとは違っていた。
怒りを押し殺した鋭い眼差し。口元はきつく結ばれ、まるで「怒れる獣」のような迫力があった。
男たちは目を見合わせ、一瞬で引きつった笑顔に変わった。
「ちっ……なんだよ、そういうのなら最初から言えよ」「運が悪かったな、じゃあな!」
逃げるように去っていく背中を見送ったあと、レオはサリスの方へ向き直った。
「……ごめん、サリス。俺が……お前をひとりにしてしまったから」
サリスはまだ小さく震えていたが、彼の顔を見た瞬間、すっと力が抜けた。
そして、胸に残っていた恐怖が、波のように引いていった。
レオはそっと、小さな箱を差し出した。
「これを、渡したくて……買ってたんだ」
サリスは目を見開き、手を伸ばして箱を受け取った。
淡い木の蓋を開けると、中にはアクアマリンと真珠があしらわれた、美しいバレッタが入っていた。
色は彼女の瞳のように澄んでいて、飾られた真珠は波のようにやさしく輝いている。
「…… レオ、これ……」
「海の色をしてたから。お前に似合うと思って」
サリスは口元を震わせて、小さく笑った。
胸の奥にあった不安が、バレッタの輝きに溶けていくようだった。
「ありがとう……とっても、うれしいわ」
レオは少しだけ照れたように目をそらしながら、そっと言った。
「……どういたしまして。お守りがわりに着けてくれると、嬉しい」
その言葉は、まるで春の光のように、サリスの心をそっと照らした。
いつの間にか、彼の手を握りしめていた。
そしてその手の温かさが、やさしくて、少しだけ切なくて、
ふたりの心に淡くて確かな恋の輪郭を描き始めていた——
