エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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森の小道を歩いていたレオは、ふと後ろを振り返った。
「…… サリス。痛くないのか?」
サリスは相変わらず、裸足のままだった。濡れた足が、地面の砂や小石で汚れている。
「え?何が?」
サリスは首をかしげ、素直にレオの顔を見上げた。
「その足だよ。陸は海と違って柔らかくない。石もあるし、棘も落ちてる。そんな足で歩き続けてたら、怪我する」
「でも、今は痛くないもの」
サリスはにこっと笑ってみせたが、足の裏はうっすらと赤くなっていた。
レオはため息をついた。
「待ってろ。……ちょっと寄り道する」
***
森を抜けてすぐの村。小さな靴屋に立ち寄ったレオは、サリスに合いそうな靴を探した。
彼女の足は小さく、ほっそりとしていた。何足か手に取って、店主に相談し、柔らかい革でできた靴を選ぶ。
「サリス」
木陰で待つ彼女の前にしゃがみ込み、レオはそっと靴を差し出した。
「これは……?」
「“靴”っていうんだ。足を守るもの。陸で暮らすなら、これが必要になる」
サリスは両手で靴を受け取り、まじまじと眺めた。初めて見る異質な形に、少し戸惑いの色が浮かぶ。
「どうやって使うの……?」
「こうやって履くんだ。……いいか、足を入れて」
レオは彼女の足を優しく持ち上げ、片足ずつ丁寧に履かせてやった。ふかふかの内側に、サリスは小さく「あっ」と声を上げた。
「なんだか、足が……抱きしめられてるみたい」
「それでいいんだ。歩いてみて」
レオはおずおずと一歩を踏み出す。砂利が当たらず、地面がやさしく感じられることに目を見張った。
「すごい……これが“くつ”……!」
ぱたぱたと歩いて、サリスは振り返る。
「ありがとう、レオ!最高の気分だわ!」
彼女の顔が、まるで宝物をもらった子供のように輝いていた。
レオはふと、思わず口元が緩むのを自覚した。
「似合ってるよ、サリス。――陸の生活、悪くないだろ?」
「ええ!でも、レオと一緒だからよ」
レオの心臓が一瞬だけ、跳ねた。
その日、二人は村の市に立ち寄り、いくつかの小物や食料を買い込みながら、のんびりと歩いていた。
「歩くのがすごく楽になったの。レオって、やっぱりすごいわ!」
サリスは新しい靴を履いた足で、楽しそうに跳ねるように歩いていた。
「はしゃぎすぎるなよ? 慣れてない靴は、油断すると――」
その時だった。サリスの足がふらりとよろけ、表情が曇った。
「……あら?」
レオがすぐに駆け寄る。
「どうした?」
「なんだか……足の後ろがちょっと痛い、かも」
レオはしゃがみ込み、彼女の靴を脱がせた。そして目を細めた。
「……やっぱり、靴擦れだ。かかとが赤くなってる」
「えっ……あ、ほんとだ……」
見ると、薄く皮膚が擦れ、赤みを帯びていた。サリスは少しシュンとした表情になる。
「せっかくもらった靴なのに、私が上手に履けなかったから……」
「違う違う、サリスのせいじゃないよ」
レオはやさしい声で言いながら、荷物の中から小さなポーチを取り出す。中には包帯や薬草、そして軟膏。
「……それ、持ち歩いてたの?」
「一応ね。旅人の基本だよ」
レオはそっとサリスの足を取り、慣れた手つきで軟膏を塗り、丁寧に包帯を巻いてやった。手際の良さに、サリスは目を見張る。
「…… レオ、すごく慣れてるのね。まるで、お医者さまみたいだわ」
「昔、いろいろあったからな。……けど、お前の足に傷がつくのは、なんか見てられないな」
レオの言葉に、サリスの胸の奥がきゅっとなった。
「レオ……」
彼女はぽつりとつぶやくように言った。
「ありがとう。靴も、こうして手当してくれるのも、全部……本当にうれしいの」
レオは少しだけ頬を赤らめ、照れたように目をそらす。
「……どういたしまして。靴はまだ馴染んでないから、ゆっくり慣らしていこう」
そして立ち上がり、彼女に手を差し出した。
「無理せず、休み休み歩こうか?」
その手を取ったサリスの心は、痛みよりも、もっとやわらかくて温かい何かでいっぱいだった。
この日彼女は、レオにもらった靴と、レオのやさしさの重みを、しっかりと胸に刻んだのだった。
