エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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夜の海は静かだった。
満ちては返す波の音の奥に、サリスは小さなざわめきを感じていた。
それは、心の深くでずっとささやき続けている名——
レオ。
彼を思い出さない日はなかった。
波間に響く歌の一節に、夢の中の潮騒に、あの青年の姿が浮かぶ。
あの夜、確かに別れた。
けれど、心はまだどこかでつながっている気がする。
「……ねえ、サリス。やっぱり、行くつもりなの?」
波打ち際にいた小さな海の精霊が、寂しそうに彼女を見上げた。
サリスはゆっくりと頷いた。
「うん。あの人に……もう一度、会いたいの。ちゃんと、自分の声で……伝えたいことがあるの」
「でも、陸は乾いてる。ヒレは……」
「知ってる。だから——変わるつもり」
サリスは砂浜に腰を下ろすと、ゆっくりと月の光を浴びるように足を投げ出した。
海から吹く風が潮のしずくをさらい、尾ひれの輝きを少しずつ奪っていく。
ひんやりとした尾ひれの感触が、次第に温かく変わっていく。
細かな鱗が淡く光りながら消えていき、そこに現れたのは——人間の足だった。
それは、海の少女にとって「歩くための奇跡」。
でも同時に、海に戻るための力を一時的に失うことでもあった。
「……痛くないの?」
精霊が心配そうに尋ねる。
サリスは小さく笑って首を横に振った。
「ううん。痛くないわ。だってこれは、レオがくれた希望だから」
風がやみ、月が雲の切れ間から顔をのぞかせた。
サリスの素肌と足を淡く照らし、まるで彼女の決意を祝福するようだった。
海の波が静かに、彼女の背中を押した。
「行ってらっしゃい、サリス」
精霊がそっとささやいた。
サリスは一度だけ海を振り返り、足元を確かめるように一歩、また一歩と歩き出した。
夜明け前の空が、少しずつ藍から薄紫へと変わっていく。
これは、彼に向かう最初の一歩。
人間の世界へ。
レオという名前の光へ。
待っていて。
必ず、会いに行くわ。
