エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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海の底には、静けさがある。
けれどそれは「無音」ではない。
潮の流れる音、魚たちの吐息、岩にぶつかる波の囁き。
そして、心に語りかけてくるような精霊のさざめき。
私は今、それらすべてに包まれている。
けれど、どうしてだろう。
こんなにも懐かしい場所に戻ってきたのに——心の奥が、少しだけ寂しい。
私はサリス。
潮の森で生まれた人魚。
歌で魚や風と語らい、月明かりと遊びながら生きていた。
それがある日、海の表面に近づきすぎて、陸の船に見つかって——
気づけば檻の中。
乾いた空気に喉が焼けて、どれだけ歌っても誰にも届かない。
……怖かった。
あのときは、もう二度と海に帰れないと思った。
でも、彼がいたわ。
布の隙間から差し込む光。
その向こうに立っていた、見知らぬ青年。
私を見て、驚いて、それでも目を逸らさなかった。
人間なのに、私の恐怖をちゃんと見てくれた。
あの一瞬で、なぜか信じられた。
檻の中で震えていた心が、ほんの少し温かくなったのを覚えている。
——そして、本当に助けに来てくれた。
とても、不思議な気分だったわ。
あなた、どこかで会ったような気がするの。
遠い昔、引き離された、
太陽と月のようで。
レオ。
たぶん、そう呼ばれていた青年。
彼の腕の中は、熱かった。生きている熱だった。
海のぬくもりとは違う、でも優しくて、守られていると感じた。
あの夜、海に還っていく途中、何度も振り返ってしまった。
遠ざかる彼の姿を、波の上からずっと見つめていた。
声に出して言えなかったけれど、私も伝えたかった。
「ありがとう」って。
そして今。
私はまた海で暮らしている。
けれど、前とまったく同じではない。
波の音の中に、ときどき人間の言葉が混じる。
レオがくれたあの夜の記憶が、胸の中で何度も波紋のように広がる。
私が歌うと、海の精霊たちは言う。
——その歌、人間の名を呼んでいるね。
私はふっと笑う。
ええ、たぶんそうなの。
だって、私の歌には、彼の名がもう刻まれてしまったから。
いつかまた——
月の満ちる夜に、風が静かに吹く浜辺で。
もう一度、あの瞳と出会えたなら。
今度こそ、ちゃんと自分の声で伝えたい。
「ありがとう、レオ」って。
