エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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レオはサリスを抱えたまま、夜の街を駆け抜けていた。
風が耳元を裂き、背後では怒声と足音がどんどん迫ってくる。
「そっちだ! 逃げたのは小僧だ! そいつが人魚の女を——!」
追っ手の声が壁に反響する。だが、レオは振り返らなかった。
頭の中にあるのはひとつだけ——海へ行け。
海なら、サリスを自由にできる。檻でも鎖でもない、本物の「彼女の居場所」へ。
「もう少しだ、絶対に逃げ切ってみせる……!」
街を抜ける裏道を知っていたのが幸いだった。旅の途中、何日かこの街に滞在して地図を描いていたのだ。
回り道をしながら、坂を下り、古い水門をくぐると、鼻先をくすぐるような潮の匂いが風に混じってきた。
その瞬間、サリスの瞳がぱっと開かれた。
「……海、だ……」
彼女が小さく呟いたとき、レオの心臓が跳ねた。
その声には、希望が宿っていた。
月光の差し込む最後の小道を抜け、二人はようやく崖の上の小さな展望台にたどり着いた。
そこからは、夜の海が広がっていた。
静かで、広くて、どこまでも青く光る。
波間に月の光が細く長くのびて、まるで空と海とを結ぶ橋のように輝いていた。
「下に行こう、浜に降りられるはずだ!」
サリスは崖沿いの細い階段を駆け下りる。後ろから、ついに追っ手の姿が見え始めていた。
「止まれぇっ! そいつは貴族様のもんだぞォ!」
怒声にかき消されそうになりながらも、レオは全力で走った。
そして、ようやく足が砂を踏んだとき——
「レオ!」
サリスが小さく叫んだ。
彼の名前を呼ぶその声は、水に触れた音のように澄んでいた。
彼はそのまま波打ち際まで駆け寄り、そっとサリスを下ろした。
サリスの尾が潮を受けてきらめく。
その姿はまるで海そのもののように、神秘的だった。
サリスはゆっくりと海へと身を滑らせた。
足ではなく、尾で波を蹴り、自由に水を撥ねさせながら、すっと沖へと進んでいく。
追っ手が浜辺にたどり着いたとき、彼女はもう深い場所まで泳いでいた。
彼らは呆然と海を睨みつけ、罵声を浴びせるばかりだった。
レオは静かに浜に立ち尽くしていた。
自分の手から、彼女が解き放たれていく——
けれどそれは、悲しみではなかった。
サリスが振り返り、静かに微笑んだ。
そして、歌った。
風よりも優しく、波よりも遠くまで届く声。
それはレオだけに向けられた、美しい「ありがとう」の歌だった。
夜の海に歌が響く。
まるでこの世界が、彼女の歌に応えているかのように。
レオはただその歌に耳を傾けながら、月の道を見つめ続けたのだった。
