エメラルドの檻①【オリジナル夢】
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レオの足は、思考よりも先に動いていた。
荷車を押す男たちの背中を目で追い、そのまま人混みをかき分けてついていく。
街の喧騒が次第に遠のき、石畳は苔むした裏路地へと変わっていった。
彼らは人目を避けるように裏門の鉄扉を抜け、古い倉庫の前で足を止める。
そこは商人や盗品屋がよく使う「表に出せない物」を扱う場所だった。
重そうな扉がギイィと軋む音を立てて開き、男たちは荷車を中へと運び込む。
扉が閉まる瞬間、レオは壁の陰に身を潜めた。
しばらくして、倉庫の前から男たちの姿が消える。どうやら中で準備をしているようだ。
今しかない——そう思ったレオは、静かに倉庫の裏手へと回り込んだ。
瓦が崩れた隙間から、どうにか中を覗き込む。
灯りの届かない奥の方、木箱の影に、あのガラスの箱が置かれていた。
布はすでに取られ、エメラルドの尾が青白く光っている。
人魚は箱の中で、力なく目を伏せていた。
あの一瞬の目の輝きが、もう失われてしまったかのように。
「……っ、助けてやる……」
レオは自分でも信じられないほど静かな声でそう呟き、壁のくずれかけた部分を足場にして、倉庫の中へと忍び込んだ。
男たちの気配は別の部屋から聞こえる。猶予は、ほんのわずかしかない。
ガラスの箱の留め具には、古びた鍵がかかっていた。
だが、旅人のレオは道中の野盗に学んだ手癖をひとつ持っていた。
腰のポーチから針金を取り出し、手早く鍵穴に差し込む。
カチリ、と小さな音がして錠が外れた。
箱を開けた瞬間、冷たい水の匂いがふわりと漂った。
「……っ、あんた、大丈夫か?」
彼女の目がかすかに動く。
けれど恐怖の記憶がまだ強いのだろう、身をすくめるようにして彼を見つめ返した。
レオはそっと手を差し出した。
「俺の名前はレオ。安心しろ、あんたを売ろうとなんてしない。外へ逃げよう、一緒に」
数秒の沈黙の後——
人魚の少女は、かすかに頷いた。
レオは彼女をそっと箱から抱き上げた。
その身体は水の気配を纏っていて、どこか透明な光を帯びていた。
「…… サリス……」
「え?」
「わたし…… サリス。名前……」
それが、少女の名だった。
たとえ声がかすれていても、音のひとつひとつが水の音のように美しかった。
そのとき、奥の扉から怒鳴り声が響いた。
「おい! 箱がねぇぞ! 誰か入ったな!? てめえら、外を探せ!!」
時間がない。
レオはサリスを抱いたまま、元来た裏手の抜け穴へと走った。
月明かりが二人を照らし出す中、倉庫の裏路地にレオの足音だけが響いていた。
