美しき女(ひと)
夢主(あなた)の名前
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秋の訪れが感じられるような冷やりとした風が、優しく夢子の頬を撫でた。
(風が気持ちいい…新しい学校はどんな場所だろう。)
夢子の口角は期待に思わず上がり、舗装された道を駆け出した。難易度の高い入学試験に合格し、やっと入学したのだ。夢子の胸は期待に膨らんでいた。この学院で彼女をじわじわと包み込む甘き棘のある運命を知らずに-。
元々生徒数の限られたこの学院では上級生が下級生の面倒を見る制度が存在する。それぞれの下級生の「Mentor メンター」に選ばれた上級生は、下級生が学院での生活を送る手助けをしなければいけない。
(私の「メンター」は誰だろう…。)
その時、夢子の視界に美しい闇色の制服を着こなした女生徒が現れた。同じく漆黒の髪を持ち、指には蛇を象った指輪を嵌めていた。夢子を映す切れ長の瞳は、凛々しさと美しさを湛えていた。
「……パンドラだ。今日からお前のメンターに選ばれた。慣れるまでは大変だろうが、私が指導してやるから安心しろ。」
美しく凛とした声に、夢子は思わず息を呑んだ。が、慌てて名前を告げた。
「私は夢子です。よろしくお願いします!あの、」
「何だ?」
夢子は意を決してパンドラを見上げた。
「お姉様とお呼びしても良いですか?私、アテナ学院の「姉妹制度」に憧れていたのです。」
「アテナ学院のか?ここは冥界学院だぞ。あまりその名を此処で呼ぶのはやめろ。良く思わない生徒も多い。」
「そうなんですね、すみません…!」
謝る夢子にパンドラは戸惑いながらも微笑んだ。
「…良い、好きに呼べ。だがメンターとしての指導に手を抜くつもりはない。この学院で堕ちたくなければ励むことだ。……来い。」
"堕ちる"……?何のことだろうか。
夢子は疑問に思ったが、ともかく彼女の後を着いて行くことにした。
学院生活が過ぎた1ヶ月-。
夢子はサンドイッチを手に中庭のベンチに座っていた。色とりどりの花が咲くこの中庭には「エリシオン」という名が付けられている。神殿のような柱が所々聳える花園のような風景は、夢子の心を落ち着かせてくれる。そんな微睡むようにふぅ、と息をついた夢子の視界に、慕ってやまないパンドラの姿が入った。
「…お姉様!」
走り寄り声をかけようと近づけば、パンドラは酷く面食らったようだった。
「…っお前か。…試験の成績が良かったようで何よりだ。」
「えへへ、お姉様が教えてくれたおかげです!」
「……良かったな。今後も励むと良い。」
微笑む夢子の頭をふわりと撫でたあと、パンドラはやや真剣な面持ちで「後でな。」と告げ去って行った。いつもより緊迫した彼女の後ろ姿に疑問を覚えた夢子は、少しだけパンドラの後を追うことにした。
(こ、校舎にこんな場所あったんだ……。)
重厚な古城を思わせる石造りの壁、床に敷かれた赤いビロードの絨毯が果てなく伸びる廊下-。廊下の先へ、パンドラの後ろ姿が消えてゆく。後をつける夢子に気づいていないのか、パンドラは廊下の奥にある部屋に入って行った。部屋の扉は、黒と金と銀の装飾で所々縁どられていた。扉から少し漏れてくる声に引き寄せられるように、夢子はゆっくりと近づいた。
「……し訳ございません。」
「…まさかお前に妹が居たとはな。」
「あの娘が勝手に私を慕っているのです。…今は関係のない事かと。」
凛々しく美しく、恐れるものの無さそうなパンドラが謝っている。夢子は益々疑問に思った。
(先生と話してる……?)
ぐるぐる考えていたその時、徐に扉が開いた。
「わっ!」
「……っ夢子?」
思わず声をあげてしまった夢子が見上げれば、パンドラと共に金の髪に金の瞳をもつ美青年と銀の髪と銀の瞳をもつ美青年が夢主を見下ろしていた。
「…お前がパンドラの"妹"やらか?」
「……へ?」
金の瞳で穏やかに見下ろす青年に対して、夢子は思わず気の抜けた返事を返してしまう。
「夢子、こちらはタナトス様とヒュプノス様だ。学院の理事長であるハーデス様の執事を務めている。」
「タナトス…ヒュプ、ノス……。」
タナトスと呼ばれた彼はパンドラに声をかけた。
「聞き耳を立てるどころか初対面で呼び捨てにするとは。…メンターとしての躾がなっていないのではないか?」
「申し訳ございません。まだ入学したての者ですゆえ……。」
「……タナトスよ、そうパンドラを虐めてやるな。夢子も怯えているだろう?」
「なっ…怯えてなんかいないですよ!」
そう返そうとすればパンドラの鋭い瞳が向けられ、思わず夢子は黙り込む。二人の美青年が去るのを見届けた後、パンドラは夢子の肩をきつく掴み引き寄せた。
「今後私を尾行しないように。お前のためにも。……"堕ちる"なよ。」
パンドラから漂う甘く刺すような香りに当てられながら、夢子はこくりと頷くことしか出来なかった。
(風が気持ちいい…新しい学校はどんな場所だろう。)
夢子の口角は期待に思わず上がり、舗装された道を駆け出した。難易度の高い入学試験に合格し、やっと入学したのだ。夢子の胸は期待に膨らんでいた。この学院で彼女をじわじわと包み込む甘き棘のある運命を知らずに-。
元々生徒数の限られたこの学院では上級生が下級生の面倒を見る制度が存在する。それぞれの下級生の「Mentor メンター」に選ばれた上級生は、下級生が学院での生活を送る手助けをしなければいけない。
(私の「メンター」は誰だろう…。)
その時、夢子の視界に美しい闇色の制服を着こなした女生徒が現れた。同じく漆黒の髪を持ち、指には蛇を象った指輪を嵌めていた。夢子を映す切れ長の瞳は、凛々しさと美しさを湛えていた。
「……パンドラだ。今日からお前のメンターに選ばれた。慣れるまでは大変だろうが、私が指導してやるから安心しろ。」
美しく凛とした声に、夢子は思わず息を呑んだ。が、慌てて名前を告げた。
「私は夢子です。よろしくお願いします!あの、」
「何だ?」
夢子は意を決してパンドラを見上げた。
「お姉様とお呼びしても良いですか?私、アテナ学院の「姉妹制度」に憧れていたのです。」
「アテナ学院のか?ここは冥界学院だぞ。あまりその名を此処で呼ぶのはやめろ。良く思わない生徒も多い。」
「そうなんですね、すみません…!」
謝る夢子にパンドラは戸惑いながらも微笑んだ。
「…良い、好きに呼べ。だがメンターとしての指導に手を抜くつもりはない。この学院で堕ちたくなければ励むことだ。……来い。」
"堕ちる"……?何のことだろうか。
夢子は疑問に思ったが、ともかく彼女の後を着いて行くことにした。
学院生活が過ぎた1ヶ月-。
夢子はサンドイッチを手に中庭のベンチに座っていた。色とりどりの花が咲くこの中庭には「エリシオン」という名が付けられている。神殿のような柱が所々聳える花園のような風景は、夢子の心を落ち着かせてくれる。そんな微睡むようにふぅ、と息をついた夢子の視界に、慕ってやまないパンドラの姿が入った。
「…お姉様!」
走り寄り声をかけようと近づけば、パンドラは酷く面食らったようだった。
「…っお前か。…試験の成績が良かったようで何よりだ。」
「えへへ、お姉様が教えてくれたおかげです!」
「……良かったな。今後も励むと良い。」
微笑む夢子の頭をふわりと撫でたあと、パンドラはやや真剣な面持ちで「後でな。」と告げ去って行った。いつもより緊迫した彼女の後ろ姿に疑問を覚えた夢子は、少しだけパンドラの後を追うことにした。
(こ、校舎にこんな場所あったんだ……。)
重厚な古城を思わせる石造りの壁、床に敷かれた赤いビロードの絨毯が果てなく伸びる廊下-。廊下の先へ、パンドラの後ろ姿が消えてゆく。後をつける夢子に気づいていないのか、パンドラは廊下の奥にある部屋に入って行った。部屋の扉は、黒と金と銀の装飾で所々縁どられていた。扉から少し漏れてくる声に引き寄せられるように、夢子はゆっくりと近づいた。
「……し訳ございません。」
「…まさかお前に妹が居たとはな。」
「あの娘が勝手に私を慕っているのです。…今は関係のない事かと。」
凛々しく美しく、恐れるものの無さそうなパンドラが謝っている。夢子は益々疑問に思った。
(先生と話してる……?)
ぐるぐる考えていたその時、徐に扉が開いた。
「わっ!」
「……っ夢子?」
思わず声をあげてしまった夢子が見上げれば、パンドラと共に金の髪に金の瞳をもつ美青年と銀の髪と銀の瞳をもつ美青年が夢主を見下ろしていた。
「…お前がパンドラの"妹"やらか?」
「……へ?」
金の瞳で穏やかに見下ろす青年に対して、夢子は思わず気の抜けた返事を返してしまう。
「夢子、こちらはタナトス様とヒュプノス様だ。学院の理事長であるハーデス様の執事を務めている。」
「タナトス…ヒュプ、ノス……。」
タナトスと呼ばれた彼はパンドラに声をかけた。
「聞き耳を立てるどころか初対面で呼び捨てにするとは。…メンターとしての躾がなっていないのではないか?」
「申し訳ございません。まだ入学したての者ですゆえ……。」
「……タナトスよ、そうパンドラを虐めてやるな。夢子も怯えているだろう?」
「なっ…怯えてなんかいないですよ!」
そう返そうとすればパンドラの鋭い瞳が向けられ、思わず夢子は黙り込む。二人の美青年が去るのを見届けた後、パンドラは夢子の肩をきつく掴み引き寄せた。
「今後私を尾行しないように。お前のためにも。……"堕ちる"なよ。」
パンドラから漂う甘く刺すような香りに当てられながら、夢子はこくりと頷くことしか出来なかった。
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