四章、トーリンという男
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追い立てられるように切り立った山へ入った一行は、足場がほとんどない状態で尚且つ雨に降られていた。バーリンを先頭に進む彼らだったが、既に疲労はピークに達していた。
「しっかり!下を見ちゃだめよ、ビルボ」
ネルファンディアは足取りが1番不安げなビルボの隣でそうアドバイスした。丁度その時だった。突然上から落石があり、彼らは危うく崖から落ちそうになった。トーリンは無意識に横にいたネルファンディアの手を掴んだ。
「落ちるなよ。」
「分かってます、死にたくないから」
とは返したものの、彼女は渡り切る前に落石でつぶされるか足を滑らせて落ちてしまうかのどちらかだろうなと思った。
彼らが道をいそごうとすると、また落石があった。それだけではない。なんと足場が動き始めたのだ。バーリンが叫んだ。
「これは足場ではありません!岩の巨人です!」
「伝説は本当だったのか……」
「ファンゴルンの森のエントとそう変わり映えしないわね」
トーリンたちが歩いていたのは巨人の膝で、右足の方に乗っていたフィーリを含むドワーフたちと一行は分断されてしまった。巨人は一人だけではなく三人おり、それぞれがいがみ合っている最中だった。トーリンは普通の岩壁を見つけると、タイミングを見計らって走って飛び移ることをひらめいた。
「飛べるか、ネルファンディア」
「……距離にもよります」
彼女は飛び移る方の足場を見やり、ため息をつくと杖を背中に差し、両手を空けた。
少し待っていると、その時がやってきた。トーリンを始め、多くのドワーフが飛び移る中、ネルファンディアはビルボを先に行かせたので最後になった。
「飛べ!!!」
向こうでトーリンが手を伸ばしているのを見た彼女は、彼に命を預ける思いで跳躍した。その跳躍力はトーリンも驚くもので、手ではなくネルファンディアの体が彼の腕の中に着地した。彼女が飛んだ直後に、先ほどまで足場にしていた巨人は崖の下に落ちていった。分かれていた仲間も合流し、歩きだそうと足を早めたが、それはビルボの叫び声で止まった。
「うわっ!!!」
「ビルボ!」
足を滑らせたビルボは思ったよりも重く、足場も悪かったので引き上げようにもドワーリンの力では足りなかった。すると、ネルファンディアの横にいたトーリンが崖からぶら下がり、下から彼を持ち上げて助けた。だが、今度はトーリンが落ちそうになる。誰もが諦めた瞬間だった。不意に自分の腕を掴む白い手が彼の目に飛び込んできた。か細く、簡単に折れてしまいそうなその腕からは想像出来ない力で彼は上に引き上げられた。
何とか崖から這い上がったトーリンの目に最初に映ったのは、雨に打たれてすっかりびしょぬれになったネルファンディアだった。彼女が彼を一人で引き上げたのだ。
「一体どこからそんな力が……」
「私にも分からないけど、咄嗟に助けなきゃって思ったの」
「……そうか、礼を言う」
ぶっきらぼうな返事を返したトーリンだったが、そんな彼女を内心では感心していた。
トーリンは立ち上がると一変してビルボを睨みつけた。
「この者には大体すべてが不可能なのだ!なんと足でまといな……」
彼はそのままビルボに背を向けると、今日の宿を探し始めた。ネルファンディアはトーリンの厳しい一面を目の当たりにし、辛そうなビルボに少し同情するのだった。
首尾よく見つけた洞窟で見張りについていたネルファンディアとボフールはじっと岩肌を見ていた。彼はネルファンディアがトーリンの先程の態度に対して疑問を抱いていることに気づいていたので、トーリンが眠ったことを確認してこう切り出した。
「………考えてるんだよ、トーリンは。……たまにひどいこと言うけどな」
「どうしてなのかが分からないの。だって、みんな限りある命なのに」
ボフールは首を横に振った。
「トーリンは、ただのドワーフじゃない。彼ははなれ山───山の下の王になるお方なんだ。王として、厳しい選択をすることだってあるんだと思うぜ」
「…………大変なのね、王様になるって」
「でも、それを含めて俺らのトーリンだから。俺たちはみんな、トーリンが大好きだ」
ネルファンディアはまだまだ分からないことがあったが、少なくともそれは完全なトーリンの真意ではなく、他の仲間のことを気遣っての言葉だったとだけでも知れて良かったと思った。また、彼が王として本当に慕われていることを。彼女が再び岩肌に目を戻した時だった。背後で何かが動く気配がした。
「誰?」
「ごめん、僕です………」
振りかざしたネルファンディアの杖は、両手を上げたビルボの鼻先の寸で止まった。
「あら、ビルボ。」
「荷物まとめてどーするんだよ。まさか、帰る気か??」
ビルボはため息をつくと、うんざりしていると言いたげな顔で答えた。
「ああ、そうだよ。」
「仲間じゃないか!」
「本当にそう?トーリンは僕を足でまといだと思ってる。居ない方がましだよ」
「ビルボ………」
ネルファンディアはビルボには先程のトーリンの言葉がやはり深く心に刺さっているのだなと確信した。彼は怒り浸透で続けた。
「ああ、そうだね。僕だって帰りたいよ。帰りたいよ!僕には帰る家がある!でも君らにはない」
彼はそこまで言い切ると、言ってはいけない事を言ってしまった罪悪感に苛まれた。いつもは楽天的なボフールの表情が一瞬、冷めた表情になった。しかし、すぐにそれは悲しみを隠しきれない表情に変わった。
「ああ、俺達にはないよ。みんなそうだ、帰る場所なんて、どこにもないんだ。」
ボフールの言葉に悲しみを覚えたのは、ネルファンディアだけではなかった。ビルボにひどいこと言ってしまった罪悪感のせいで眠りにつけなかったトーリンも、その一人だった。彼はその言葉で今はまだ戻ることが出来ない祖国エレボールへの郷愁にかられるのだった。
「じゃあ、元気でな。」
「……ありがとう」
「外まで見送るね、ビルボ」
ネルファンディアが別れを告げたビルボの前に立って洞窟から出ようとした時だった。先程までは平坦だったはずの地面に、突如縦の亀裂が走った。トーリンは狸寝入りを止めてはね起きると危険を悟り、大声で皆を起こし始めた。
「起きろ!起きろ!!」
「な、なんだ??」
しかし、亀裂は止まることを知らず深くなり、なんと底が落とし穴のように開いた。
「え…………うわああああ」
寝ぼけたドワーフたちは何事が起きているのかも分からぬまま、下へ落ちていった。
偶然亀裂の外にいたネルファンディアは、初めは呆然としていたがやがてすぐに大変なことが起きてしまったことに気づき、大慌てで先程まで開いていた地面の上に立った。
「…………開くかな……」
彼女は持っていた杖を頭上に振り上げると、何やら呪文を唱えて思い切り振り下ろした。しかし、何も起きない。
「だめかぁ………どうしよう、トーリン……うわっ!!!えええええ」
彼女が絶望して天井を見ていると、時差で床が先程のように開き、彼女もトーリン一行の後を追うようにして地底世界へ真っ逆さまに落ちていった。
地底には、ゴブリンたちの王国が築かれていた。幸いにも、彼らはトーリンたちの尋問に気を取られていてネルファンディアの存在には気づいていなかった。彼女はトーリンを助けるための避けられない戦いを予期して、杖をしっかりと握り直した。
───大丈夫、ネルファンディア。きっと上手くいくよ
彼女は自分にそう言い聞かせると、尋問をしている一画の裏に回った。
「これは山の下の王!トーリン・オーケンシールド殿か!!まぁ、といっても今は王でも王子でも何でもないわ!ただのドワーフよ」
トーリンがゴブリンの王に侮辱されている様子を見て、ネルファンディアはその下世話な笑い方に怒りを覚えた。ふと、トーリンが顔を上げるとネルファンディアと目が合った。彼女はトーリンに身振りでまだ事を起こすなと伝えた。すると、背後からガンダルフが駆けつけた。彼女はこれを待っていたのだ。彼は目くらましの光を放つと、トーリンらに高らかに告げた。
「─────剣を取るのじゃ、戦え!!」
トーリンは剣を拾うと、周りを取り囲むゴブリンたちを次々になぎ倒していく。ネルファンディアも剣を抜いて、ゴブリンたちの進軍を阻止するために吊り橋の縄を切り落とした。それを見たトーリンはネルファンディアに笑いかけるとこっちへ来るように手招きした。
「トーリン!無事でしたか」
「ああ、問題は無い。………ただ、人数が多すぎる」
「ご安心を。地上には彼らは出られませんから」
「皆!走れ!ここから出るぞ!」
トーリンの掛け声で一斉にドワーフたちは出口へ向かって走り出した。しかし、その背後や横、更には天井や前から彼ら目掛けて追いかけてくるゴブリンの軍勢を前にして苦戦を強いられた。ネルファンディアも杖と剣を使って並み居る敵を倒した。
「きりがない!どうする」
「 吊り橋を切るのよ!それしかないわ」
ひときわ大きな橋の前にさしかかった彼らはゴブリンに囲まれてしまった。彼女の提案通り、橋の縄が切られた。だが、トーリンが勢いよく剣を振りすぎたせいで余計な縄まで切られてしまい、ネルファンディアの足場が崩れた。
「ネルファンディア!」
トーリンは咄嗟に彼女の名前を呼ぶと、しっかりと手を掴んだ。引き上げられた彼女は、起きたことよりもトーリンが自分の名前を呼んだことに驚いていた。
「………ありがとう……」
「気にするな、先程の返しだ」
彼は急にネルファンディアの手を離してしまうと、永遠に失われてしまいそうな不安に駆られたので手を握ったまま走り出した。
出口はもうすぐそこだった。
ネルファンディアはこのままずっとトーリンが自分を守ってくれているような感覚に浸っていたいと願っていた。
「しっかり!下を見ちゃだめよ、ビルボ」
ネルファンディアは足取りが1番不安げなビルボの隣でそうアドバイスした。丁度その時だった。突然上から落石があり、彼らは危うく崖から落ちそうになった。トーリンは無意識に横にいたネルファンディアの手を掴んだ。
「落ちるなよ。」
「分かってます、死にたくないから」
とは返したものの、彼女は渡り切る前に落石でつぶされるか足を滑らせて落ちてしまうかのどちらかだろうなと思った。
彼らが道をいそごうとすると、また落石があった。それだけではない。なんと足場が動き始めたのだ。バーリンが叫んだ。
「これは足場ではありません!岩の巨人です!」
「伝説は本当だったのか……」
「ファンゴルンの森のエントとそう変わり映えしないわね」
トーリンたちが歩いていたのは巨人の膝で、右足の方に乗っていたフィーリを含むドワーフたちと一行は分断されてしまった。巨人は一人だけではなく三人おり、それぞれがいがみ合っている最中だった。トーリンは普通の岩壁を見つけると、タイミングを見計らって走って飛び移ることをひらめいた。
「飛べるか、ネルファンディア」
「……距離にもよります」
彼女は飛び移る方の足場を見やり、ため息をつくと杖を背中に差し、両手を空けた。
少し待っていると、その時がやってきた。トーリンを始め、多くのドワーフが飛び移る中、ネルファンディアはビルボを先に行かせたので最後になった。
「飛べ!!!」
向こうでトーリンが手を伸ばしているのを見た彼女は、彼に命を預ける思いで跳躍した。その跳躍力はトーリンも驚くもので、手ではなくネルファンディアの体が彼の腕の中に着地した。彼女が飛んだ直後に、先ほどまで足場にしていた巨人は崖の下に落ちていった。分かれていた仲間も合流し、歩きだそうと足を早めたが、それはビルボの叫び声で止まった。
「うわっ!!!」
「ビルボ!」
足を滑らせたビルボは思ったよりも重く、足場も悪かったので引き上げようにもドワーリンの力では足りなかった。すると、ネルファンディアの横にいたトーリンが崖からぶら下がり、下から彼を持ち上げて助けた。だが、今度はトーリンが落ちそうになる。誰もが諦めた瞬間だった。不意に自分の腕を掴む白い手が彼の目に飛び込んできた。か細く、簡単に折れてしまいそうなその腕からは想像出来ない力で彼は上に引き上げられた。
何とか崖から這い上がったトーリンの目に最初に映ったのは、雨に打たれてすっかりびしょぬれになったネルファンディアだった。彼女が彼を一人で引き上げたのだ。
「一体どこからそんな力が……」
「私にも分からないけど、咄嗟に助けなきゃって思ったの」
「……そうか、礼を言う」
ぶっきらぼうな返事を返したトーリンだったが、そんな彼女を内心では感心していた。
トーリンは立ち上がると一変してビルボを睨みつけた。
「この者には大体すべてが不可能なのだ!なんと足でまといな……」
彼はそのままビルボに背を向けると、今日の宿を探し始めた。ネルファンディアはトーリンの厳しい一面を目の当たりにし、辛そうなビルボに少し同情するのだった。
首尾よく見つけた洞窟で見張りについていたネルファンディアとボフールはじっと岩肌を見ていた。彼はネルファンディアがトーリンの先程の態度に対して疑問を抱いていることに気づいていたので、トーリンが眠ったことを確認してこう切り出した。
「………考えてるんだよ、トーリンは。……たまにひどいこと言うけどな」
「どうしてなのかが分からないの。だって、みんな限りある命なのに」
ボフールは首を横に振った。
「トーリンは、ただのドワーフじゃない。彼ははなれ山───山の下の王になるお方なんだ。王として、厳しい選択をすることだってあるんだと思うぜ」
「…………大変なのね、王様になるって」
「でも、それを含めて俺らのトーリンだから。俺たちはみんな、トーリンが大好きだ」
ネルファンディアはまだまだ分からないことがあったが、少なくともそれは完全なトーリンの真意ではなく、他の仲間のことを気遣っての言葉だったとだけでも知れて良かったと思った。また、彼が王として本当に慕われていることを。彼女が再び岩肌に目を戻した時だった。背後で何かが動く気配がした。
「誰?」
「ごめん、僕です………」
振りかざしたネルファンディアの杖は、両手を上げたビルボの鼻先の寸で止まった。
「あら、ビルボ。」
「荷物まとめてどーするんだよ。まさか、帰る気か??」
ビルボはため息をつくと、うんざりしていると言いたげな顔で答えた。
「ああ、そうだよ。」
「仲間じゃないか!」
「本当にそう?トーリンは僕を足でまといだと思ってる。居ない方がましだよ」
「ビルボ………」
ネルファンディアはビルボには先程のトーリンの言葉がやはり深く心に刺さっているのだなと確信した。彼は怒り浸透で続けた。
「ああ、そうだね。僕だって帰りたいよ。帰りたいよ!僕には帰る家がある!でも君らにはない」
彼はそこまで言い切ると、言ってはいけない事を言ってしまった罪悪感に苛まれた。いつもは楽天的なボフールの表情が一瞬、冷めた表情になった。しかし、すぐにそれは悲しみを隠しきれない表情に変わった。
「ああ、俺達にはないよ。みんなそうだ、帰る場所なんて、どこにもないんだ。」
ボフールの言葉に悲しみを覚えたのは、ネルファンディアだけではなかった。ビルボにひどいこと言ってしまった罪悪感のせいで眠りにつけなかったトーリンも、その一人だった。彼はその言葉で今はまだ戻ることが出来ない祖国エレボールへの郷愁にかられるのだった。
「じゃあ、元気でな。」
「……ありがとう」
「外まで見送るね、ビルボ」
ネルファンディアが別れを告げたビルボの前に立って洞窟から出ようとした時だった。先程までは平坦だったはずの地面に、突如縦の亀裂が走った。トーリンは狸寝入りを止めてはね起きると危険を悟り、大声で皆を起こし始めた。
「起きろ!起きろ!!」
「な、なんだ??」
しかし、亀裂は止まることを知らず深くなり、なんと底が落とし穴のように開いた。
「え…………うわああああ」
寝ぼけたドワーフたちは何事が起きているのかも分からぬまま、下へ落ちていった。
偶然亀裂の外にいたネルファンディアは、初めは呆然としていたがやがてすぐに大変なことが起きてしまったことに気づき、大慌てで先程まで開いていた地面の上に立った。
「…………開くかな……」
彼女は持っていた杖を頭上に振り上げると、何やら呪文を唱えて思い切り振り下ろした。しかし、何も起きない。
「だめかぁ………どうしよう、トーリン……うわっ!!!えええええ」
彼女が絶望して天井を見ていると、時差で床が先程のように開き、彼女もトーリン一行の後を追うようにして地底世界へ真っ逆さまに落ちていった。
地底には、ゴブリンたちの王国が築かれていた。幸いにも、彼らはトーリンたちの尋問に気を取られていてネルファンディアの存在には気づいていなかった。彼女はトーリンを助けるための避けられない戦いを予期して、杖をしっかりと握り直した。
───大丈夫、ネルファンディア。きっと上手くいくよ
彼女は自分にそう言い聞かせると、尋問をしている一画の裏に回った。
「これは山の下の王!トーリン・オーケンシールド殿か!!まぁ、といっても今は王でも王子でも何でもないわ!ただのドワーフよ」
トーリンがゴブリンの王に侮辱されている様子を見て、ネルファンディアはその下世話な笑い方に怒りを覚えた。ふと、トーリンが顔を上げるとネルファンディアと目が合った。彼女はトーリンに身振りでまだ事を起こすなと伝えた。すると、背後からガンダルフが駆けつけた。彼女はこれを待っていたのだ。彼は目くらましの光を放つと、トーリンらに高らかに告げた。
「─────剣を取るのじゃ、戦え!!」
トーリンは剣を拾うと、周りを取り囲むゴブリンたちを次々になぎ倒していく。ネルファンディアも剣を抜いて、ゴブリンたちの進軍を阻止するために吊り橋の縄を切り落とした。それを見たトーリンはネルファンディアに笑いかけるとこっちへ来るように手招きした。
「トーリン!無事でしたか」
「ああ、問題は無い。………ただ、人数が多すぎる」
「ご安心を。地上には彼らは出られませんから」
「皆!走れ!ここから出るぞ!」
トーリンの掛け声で一斉にドワーフたちは出口へ向かって走り出した。しかし、その背後や横、更には天井や前から彼ら目掛けて追いかけてくるゴブリンの軍勢を前にして苦戦を強いられた。ネルファンディアも杖と剣を使って並み居る敵を倒した。
「きりがない!どうする」
「 吊り橋を切るのよ!それしかないわ」
ひときわ大きな橋の前にさしかかった彼らはゴブリンに囲まれてしまった。彼女の提案通り、橋の縄が切られた。だが、トーリンが勢いよく剣を振りすぎたせいで余計な縄まで切られてしまい、ネルファンディアの足場が崩れた。
「ネルファンディア!」
トーリンは咄嗟に彼女の名前を呼ぶと、しっかりと手を掴んだ。引き上げられた彼女は、起きたことよりもトーリンが自分の名前を呼んだことに驚いていた。
「………ありがとう……」
「気にするな、先程の返しだ」
彼は急にネルファンディアの手を離してしまうと、永遠に失われてしまいそうな不安に駆られたので手を握ったまま走り出した。
出口はもうすぐそこだった。
ネルファンディアはこのままずっとトーリンが自分を守ってくれているような感覚に浸っていたいと願っていた。