終章、 来る夜明け
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エスガロスの街が、かつての栄光を取り戻したようにひときわ明るい。いや、その正体はスマウグの吐き出す炎で街が燃えている火柱なのだ。トーリンとネルファンディアは寒さを感じないように肩を寄せ合いながら、灼熱の炎の中で逃げ惑う人々の苦しみを想像し、キーリたちは大丈夫なのだろうかと心配した。
「…………私のせいだ。キーリとフィーリたちは助からないだろう。…………何故私は連れていかなかったんだろう……」
「あなたのせいじゃない。キーリはここに来れば必ず命を落すくらいに衰弱していたわ。………まだ望みはあるから…きっと……」
彼女はトーリンの手にそっと自分の手を重ねた。ネルファンディアはそれから彼の顔を見上げてふと気づいた。
────トーリンは泣いていた。
暗くてはっきりと見えないのだが、たしかに彼は唇をぐっとかんで、目を赤くしていた。彼はやっとのことで頷くと、そのままそっぽを向いてしまった。
それぞれが不安を抱えながらエスガロスを見守っていると、突然スマウグが一際強く空に舞い上がったと思うと、そのまま落下していくのを目の当たりにした。一体何があったのかが全く分かっていない一同だったが、トーリンは何があったのかを概ね察していた。
「───弓の射手だ」
「バルドさんが?たしかに鱗は1枚だけ剥がれていたけれど……」
「奴が生きているくらいだ。助かっているかもしれないな、キーリたちは」
ほんの少しだけ明るくなったトーリンは彼女にそう言って笑いかけた。
彼は脅威が去った夜空を見上げてから、背後にあるエレボールを見た。
「………帰ってきたのか………我らが故郷に」
「おめでとう、トーリン」
だが、それは同時に二人の時間が終わることを意味していた。これが終わったら、ネルファンディアは父の元へ帰らねばならない。恐らく遠すぎて永遠に会えないだろう。
「………お別れね、トーリン」
「…………またすぐ会える、きっと」
「トーリン。」
お互い、どうしようもないことは分かっていた。それでも別れが惜しかった。トーリンはため息をついてこう言った。
「わかった。皆が無事だと分かるまではここに居てくれ。それが済んだら───お別れだ」
二人はこれ以上別れが辛くなることを恐れて、互いの目を見ることが出来なかった。
すると、ネルファンディアは前も同じように夜空を見上げてトーリンと話をしたことを思い出した。あのときは珍しく彼から話しかけてきたのだ。
「ねぇ、トーリン。流れ星に願った願い事は、もう叶った?」
「ああ、あれか。…そうだな、私は叶ったぞ」
彼は目を細めると、あのとき願ったことを頭の中で想起した。
──この旅がどのような形で終わっても、ネルファンディアが無事で居られますように。
彼自身、まさか最高の結果で終わるとは、思ってもみなかったが。
そこでトーリンは同じ質問を彼女に聞き返した。
「私?……まだ叶ってないわ。強いていうなら、私が帰ってから叶うことだから」
彼女はすぐにあの日の願いを思い出せた。
──トーリンが、無事に旅を終えられ、故郷で平穏に暮らせますように。
半分は叶ったが、まだ全てではない。旅は終わったが、本当の意味の終わりはトーリンが平穏を掴み取るまで来ない。
トーリンは首に大切に掛けていたエンディアンの石をネルファンディアに返した。
「これはそなたがきっとまた必要になる」
「………旅の思い出として、大切にするわ」
石を渡し、受け取る二人の手が重なる。
この温かさがずっと続けばいいのにと、刹那にそう思う二人だった。
旅はこうして終わりを告げた。
─────しかし、本当の試練はここから始まると、二人はもちろん、誰も予期していなかった。
……それはもうすぐ来るエレボールの朝を、希望の夜明けであることを誰もが信じて疑わなかったからだった。
「…………私のせいだ。キーリとフィーリたちは助からないだろう。…………何故私は連れていかなかったんだろう……」
「あなたのせいじゃない。キーリはここに来れば必ず命を落すくらいに衰弱していたわ。………まだ望みはあるから…きっと……」
彼女はトーリンの手にそっと自分の手を重ねた。ネルファンディアはそれから彼の顔を見上げてふと気づいた。
────トーリンは泣いていた。
暗くてはっきりと見えないのだが、たしかに彼は唇をぐっとかんで、目を赤くしていた。彼はやっとのことで頷くと、そのままそっぽを向いてしまった。
それぞれが不安を抱えながらエスガロスを見守っていると、突然スマウグが一際強く空に舞い上がったと思うと、そのまま落下していくのを目の当たりにした。一体何があったのかが全く分かっていない一同だったが、トーリンは何があったのかを概ね察していた。
「───弓の射手だ」
「バルドさんが?たしかに鱗は1枚だけ剥がれていたけれど……」
「奴が生きているくらいだ。助かっているかもしれないな、キーリたちは」
ほんの少しだけ明るくなったトーリンは彼女にそう言って笑いかけた。
彼は脅威が去った夜空を見上げてから、背後にあるエレボールを見た。
「………帰ってきたのか………我らが故郷に」
「おめでとう、トーリン」
だが、それは同時に二人の時間が終わることを意味していた。これが終わったら、ネルファンディアは父の元へ帰らねばならない。恐らく遠すぎて永遠に会えないだろう。
「………お別れね、トーリン」
「…………またすぐ会える、きっと」
「トーリン。」
お互い、どうしようもないことは分かっていた。それでも別れが惜しかった。トーリンはため息をついてこう言った。
「わかった。皆が無事だと分かるまではここに居てくれ。それが済んだら───お別れだ」
二人はこれ以上別れが辛くなることを恐れて、互いの目を見ることが出来なかった。
すると、ネルファンディアは前も同じように夜空を見上げてトーリンと話をしたことを思い出した。あのときは珍しく彼から話しかけてきたのだ。
「ねぇ、トーリン。流れ星に願った願い事は、もう叶った?」
「ああ、あれか。…そうだな、私は叶ったぞ」
彼は目を細めると、あのとき願ったことを頭の中で想起した。
──この旅がどのような形で終わっても、ネルファンディアが無事で居られますように。
彼自身、まさか最高の結果で終わるとは、思ってもみなかったが。
そこでトーリンは同じ質問を彼女に聞き返した。
「私?……まだ叶ってないわ。強いていうなら、私が帰ってから叶うことだから」
彼女はすぐにあの日の願いを思い出せた。
──トーリンが、無事に旅を終えられ、故郷で平穏に暮らせますように。
半分は叶ったが、まだ全てではない。旅は終わったが、本当の意味の終わりはトーリンが平穏を掴み取るまで来ない。
トーリンは首に大切に掛けていたエンディアンの石をネルファンディアに返した。
「これはそなたがきっとまた必要になる」
「………旅の思い出として、大切にするわ」
石を渡し、受け取る二人の手が重なる。
この温かさがずっと続けばいいのにと、刹那にそう思う二人だった。
旅はこうして終わりを告げた。
─────しかし、本当の試練はここから始まると、二人はもちろん、誰も予期していなかった。
……それはもうすぐ来るエレボールの朝を、希望の夜明けであることを誰もが信じて疑わなかったからだった。