青学編
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『リボン』
三学期が始まって間もなくのこと、ここ青学でも校内マラソン大会があった。
寒いし疲れるしダルいし…と生徒間では不評だが、そんなことはお構いなしに開催される。何事も文武両道、健全なる肉体に健全なる魂だとかなんとか、都合のいい美辞麗句で進行される。
「いいなぁ、高寺さんは走らなくて…」
「……」
ジャージに着替えているとクラスの子に言われた。
「ちょっと、七星は走りたくても走れないんだからね」
「…あ、ゴメン…」
「ううん…」
友達がかばってくれて、嬉しいけれど心は重い。悪いから平気なふりして笑う。でも、本当は走りたい…。
走りたい…。
風に向かって、一直線に走りたい。
「はい、一年女子はこっち」
「ちゃんと並べよ」
校庭にぞろぞろと全校生徒が集まりだす。
「高寺は見学だったね。ならちょっと手伝って貰うよ」
テニス部顧問の竜崎先生に呼ばれて、あたしは沿道に立つことになった。
「なに、折り返し地点のポイントマーカーになってくれりゃいいんだよ。で、最後の生徒が来たらそのまま戻ってくればいいだけさ。頼んだよ」
竜崎先生にそう言われ、他の人達が大会の注意事項の説明を聞いている間に、あたしはマラソンコースの折り返し地点へと早足で急いだ。
空気は冷たい。吐く息は白く風が当たる手や頬も冷えていく。
「立つってわかってたら使い捨てカイロを持って来たのに…」
急に言われて少しだけ竜崎先生が恨めしくなってきた。
「ここかな…」
手元のコースの書かれたプリントと周囲の景色を見比べる。
「…あ、リボンだ」
竜崎先生に言われたように、道の片側の木の枝に目印の赤いリボンが結んであった。
先生側にすれば、始めから当日見学の生徒の誰かに立たせるつもりだったのだろう。
「よし、ここで間違いない」
そうつぶやくとあたしは道の真ん中に立った。
場所は住宅地内で交通量はほとんどないが、一応周囲に気を配った。生徒の交通安全にも気をつけるように言われている。
人も通らず、一人で立っているだけでは退屈な上、風は冷たくただ寒い。
「う~、早く誰か来ないかな…」
足踏みしたり手をこすり合わせたりしながら、のろのろとおもりのついたように鈍く過ぎる時間を持て余しながら、あたしは同じ場所をうろうろと歩き回っていた。