青学編
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「あなたが落としたのは、この金のラケットですか? 銀のラケットですか? それともこのごく普通のラケットですか?」
女神はその腕に3本のラケットを抱え、おおむね無表情に近いがわずかに目が点状態な手塚に、1本ずつラケットの説明をしていった。
「…俺のは、そのごく普通のラケットだ…」
直立不動とも言える姿勢で、手塚はつい先ほど泉に投げ込んだ自分のラケットを指差した。
「あなたは大変正直ですね。褒美にこの金と銀のラケットも差し上げましょう」
女神はにこやかな微笑みをたたえると、手塚にラケットの3本セットを差し出した。
「いや…俺は俺の落としたラケットだけでいい」
「なぜですか? 持っていても損はないでしょう?」
人にとって恵みを与えると思われる金や銀を欲しがらない手塚に、女神は不思議そうな顔をした。
「金や銀のラケットは重いだけで役に立ちはしないだろう。ガットまで金銀仕様では、ボールの衝撃に耐えられない。おそらくは一度打ち返しただけで終わりだ。だから俺は普通のラケットでいい」
手塚はきっぱりと言い切った。
「無欲なのですね、気に入りましたよ。3本とも差し上げましょう。受け取りなさい」
そう言うと女神はさらに手塚に近づき、金・銀・普通のラケットを改めて差し出した。
「いや、俺は普通以外に用はない」
手塚もまたかたくなに辞退する。
「受け取りなさい」
「断る」
静かな泉のほとりで押し問答と、ラケットの押しつけ合いが始まってしまった。
「何やってんすか部長」
「越前…」
ぶらぶらと散歩にでも来たのか、片手に持ったラケットを歩調に合わせて振りながら越前が歩いて来た。
「練習はどうした?」
女神と押し合いをしているというのに、手塚は眉間を寄せいぶかしげに越前を見た。
「乾先輩に言われて、部長を見に来たんすけど…ほんとなんすね」
言いながら、まじまじと女神を見つめる。泉の女神だなんて乾の冗談かと思った。
「…それなら助けようと思わないか?」
「…貸しってことなら」
チラリと帽子のつば越しに手塚を見ると、越前は持っていたラケットをポイっと無造作に泉へ投げ込んだ。
「あ~あ、落としちゃった。困ったなぁ。どうしよう」