一筆箋
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『桜』
あれほど舞い散っていた桜の花びらは、一体どこへいってしまったのだろう。
葉桜になりかけた桜並木をゆったりと歩きながら、幸村精市は思った。
「暖かいな…」
柔らかな風に葉陰のゆらめく中、いくばくか残り咲く桜からも、はらはらと花びらが離れ落ちていく。
空気も風も春だ。
ほんの数週間前までの肌寒さも今は感じられない。
「…生きているんだな…」
立ち止まると、葉陰を透かし空を見上げた。自分の好きな水色に薄く広がり溶け込んでいく雲。包まれるような陽射しが心地よい。そして、春の香りのする空気を静かに吸い込む。
「いいな、本当に」
道端のタンポポや、シロツメクサ、レンギョウ、ユキヤナギ。目に入るすべての花々が、そこに咲いているだけでただ嬉しい。
「ありがとう…」
微笑みは、何よりも穏やかだ。
「必ず、立ち上がるから…」
花びらが一枚、幸村の肩に舞い降りた。
fin.