青学編
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「後輩指導でテニス部に寄るって言ったじゃない。…誰、お客さん?」
迎えに出て来た姉に話しながらも、不二の視線は揃えられた靴を見たままだ。
「そうよ。周助にお客さん」
意味深に姉が笑った。
「僕?」
「お邪魔してます」
「あ…」
ニヤニヤする姉由美子に促され居間のドアを開けた不二に、急いで七星がソファから立ち上がりお辞儀をした。
「ど…どうしたの?」
不二も今、なぜここに七星がいるのかわからず戸惑う。
「先輩が今日お誕生日だって知らなかったから、その…」
語尾を言い淀ませながらも、七星はテーブルの脇に置いてあった小さな包みを両手に乗せ不二に差し出した。
「…え…」
「放課後学校で家庭科部の友達と一緒に急いで作ったんで…ありあわせでごめんなさい」
それはクッキングペーパーを重ねてラッピングされ、リボンになるものがなかったのだろう、同じクッキングペーパーを細く折りたたみ結んであった。そして、春告げ草の別名を持つ梅の小枝が差し込まれていた。
「クッキーなんです。それならあたしでも何とかなるだろうって…」
不二が受け取った包みを手に乗せたまま、ただジッと見つめ微動だにしないものだから七星もいささか不安になり、ついどうでもいいことを言ってしまう。
「ありがとう、七星ちゃん。まさか君から貰えるなんて思ってもいなかったから凄く嬉しいよ」
自分の誕生日を昼休みまで知らなかった七星が、ありあわせでも何でも家まで来て届けてくれた。それが、その気持ちが嬉しかった。
不二の言葉に七星の顔も笑顔がほころぶ。その笑顔が春告げ草と重なる。
1年の長さは365日と6時間。毎年6時間の欠片が残る。4年分の欠片を合わせて2月29日が出来る。
来年はまた欠片が残る。次に欠片が集まる4年後は自分は何をしているのだろう。
ふと思う。
次に欠片が集まる年にも春告げ草と共に、柔らかな日差しと微笑みを持つ女の子が傍にいてくれたならと。
fin.