箱庭~話の花束~Episode1〜
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『傘』
「あちゃ~」
部活も終わりすっかりと薄暗くなった放課後の昇降口。
部室の鍵を職員室に戻した柳は、その昇降口で焦りまくる声を聞いた。
「どうした?」
「柳くん!?」
呼ばれた女子生徒は、鞄を漁りながら驚いたように振り向いた。
「……傘がないのか?」
外は午後から降りだした雨が今もやまずにいる。
「そう、置き傘にするつもりで昨夜から折り畳みを入れておいたんだけど、今朝お弁当と辞書が上手く入らないんで全部出して入れ直したら……」
「傘だけ忘れたというわけか」
柳の言葉に女子生徒は、ため息と同時にうなずいた。
そして恨めしそうに降りやまぬ雨に視線を向けると肩を落とした。
「仕方ない。駅まで目いっぱい走ってくか。じゃあね、柳くん」
あきらめたように力なく笑うと鞄を頭に乗せ、女子生徒は柳に手を振った。
「待て」
一歩外に踏み出しかけた女子生徒は再度振り向いた。
「駅まででいいのか?」
大振りの傘を広げると柳は女子生徒に差しかけた。
「え……」
「送ろう。クラスメイトのよしみだ」
穏やかな柳の微笑みより、差しかけられた傘に驚いた。
「番傘……? 蛇の目……?」
渋めな色合いと太い木の持ち手。柳に不思議と似合う和傘だなと思った。
「柳くん、昨日はありがとう。これお礼」
翌朝登校した柳に、女子生徒は小さな紙袋をさりげなく差し出した。
「いや、礼には及ばない」
と、柳が言えば
「大した物じゃないから」
そう答えて昨日のように手を振ると、すぐ友達のいる所へ行ってしまった。
「あれ……柳、もしかして菓子持ってる?」
放課後、部室に入り丸井の傍を通り抜けようとした時だ。好物を嗅ぎつけたように、丸井は柳に近づく。
菓子など……と思ったが、朝貰った紙袋。中身は見ないままだったが、思い当たるのはそれだ。
柳が鞄から紙袋を取り出したとたん
「やっぱりチョコの匂いだぜぃ」
と、満面の笑みを浮かべる。
「大した嗅覚だな」
中から現れたのは、色とりどりのパラソルチョコだった。
「その、貰ってもいいか?」
遠慮がちに言ってはいるが、態度は貰う気満々だ。
「1本だぞ」
「やりぃ! サンキュー柳」
あっと言う間に小さな傘は、丸井の口に消えた。
「あー、丸井先輩だけなんてずるいっス!」
黙って柳は切原にも1本、差しかけるように渡した。
「さすが柳先輩! ありがとうございまっす!」
袋の中の傘は全部で8本。
立海大男子テニス部のレギュラーメンバーの数と一緒だ。
軒先を貸すのも悪くない。
1本残った傘を袋にしまうと、柳は青空の広がるテニスコートへと向かった。
fin.