箱庭~話の花束~Episode1〜
空欄の場合は夢小説設定になります
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
『往復書簡』
『柳先輩……』
思い詰めたようなような声が、携帯の向こうから流れてきたのは夏休みに入ってすぐのことだった。
「どうした、赤也」
『先輩、今年もやっぱりテニス部で夏休みの最後に宿題強化合宿ってやりますかね?』
と、いささかげんなりした口調で切原が聞いてきた。
「それはお前たち次第だと思うが?」
柳は昨年の夏休みのことを思い出した。丸井と切原が宿題が終わらないと嘆いたら、仕方ないと言いつつ精市と弦一郎が一泊二日の修行僧並みにハードな宿題合宿を開いたのだった。
「俺もう嫌っスよ、朝4時起きで宿題やるのは」
「それなら、今から計画的に片づけていけば何も問題はないはずだ」
切原の大きなため息に、柳も始まったばかりの夏休みに期待を持たせた。
結局、切原の宿題の計画表作りを一任された柳は、明日、部活の時に宿題も持参するようにと切原に告げた。
『でさ、実は相談があるんだけどよ……』
切原からの電話が終わると待っていたかのように、今度は丸井からの通話が始まった。
「夏休みの宿題についての相談である確率98%」
『うおっ!』
丸井は驚きの声を上げる。
『さすが参謀、話が早いぜ』
説明の手間が省けたのを喜び、切原と同じように去年の二の舞はごめんだという。
それならと柳はまた、先ほどの案を伝えて会話を終了した。
『ああ、それでずっと話し中だったのか』
丸井の次にかけてきた幸村が、納得して笑った。
『まあ、俺としても夏休み最終日にあのメンバーで宿題の教え合いはごめんだから、よろしく頼むよ蓮二』
爽やかに言いのけると幸村は電話を切った。
『よう、参謀殿。明日の部活は何時からじゃったかのう』
ひっきりなしにかかる、柳の電話。
その合間に、いつもの少女からのメールが来たりすると早く会話を切り上げてしまいたいと思う。
だが、
『おっと、メールじゃ。すまんの、じゃまた明日頼むぜよ』
普段メールなど後回しな仁王がこれだ。
さては……と勘ぐりたくはなる。しかし、それを確かめるのは無粋の極みというものだ。
「夏休み……か」
全国三連覇を狙う我らに休みはない。
戦い続ければ少女も応援に来るだろう、敵方として。
などと思いながら少女からのメールを開ける。
他愛ない日常の報告に自然と笑みがこぼれる。
全国が終わったら、どこか景色のいい場所へ連れていってやろう。
そんな思いを込めて返事を出す。
しばらくすると、相手からも返る。
何通か繰り返して《おやすみ》と打つ。
《おやすみなさい》と返る。
こうして電子書簡が饒舌に静寂に溶け込むと、一日が静かに終わる。
fin.