箱庭~話の花束~Episode1〜
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『秋の色』
「あ……」
隣を歩いていた少女が小さく声をあげると、そのまま立ち止まってしまった。
「どうしたの?」
「ごめんなさい、不二先輩」
そう言いながら振り向いた顔はとても困ったような表情を浮かべていた。
「ここに咲いていた彼岸花なんですが……」
少女の視線に不二も道路脇の木々が茂る草地に目を向けた。
そこには草刈りが終わったばかりの、さっぱりとした地面が顔を出していた。
「もしかして刈られちゃったのかな?」
「そうみたいです、一昨日まではちゃんと咲いてたんですけど……」
消えそうな語尾のまま、少女が取り出した携帯画面の中に凛とした一輪の彼岸花が映る。
その写真を見て、自分も撮りたいからと少女に連れて来て貰ったのだ。
「ねぇ見て。可愛いよ」
「え……」
不二の言葉に少女が画面から顔を上げた。
すぐ近くを流れる川に鴨が泳いでいる。
「今日はあの鴨を撮ろうよ」
少女に笑顔でそう言うと、不二はシャッターを切った。不二の気遣いに気落ちしていた少女もようやく笑顔になれた。
「先輩、向こうに鷺が」
少女の指差すほうに、川の中をゆっくりと歩く白い優美な姿があった。
「ほんとだ、綺麗だね」
すかさず不二はファインダーを覗く。
「そうだ、今度は紅葉を撮りに行かない?」
ひとしきりカメラを向けてから、不二が少女に言った。
「紅葉ですか……」
秋の風景に想いを馳せるように少女の視線が水色の空に流れた。
「いいですね」
「じゃ、見頃になったら誘うから行こうね」
鞄にカメラをしまう不二の背中越しに白鷺が羽ばたいていった。
まだ暑さが残る中、時折吹く風は爽やかで確実に秋へと色をつけていく。木々の合間から虫の音も聴こえ始めた。
fin.