箱庭~話の花束~Episode1〜
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『炎帝2』
夏の異名を炎帝と呼ぶ。
今年の夏は例年になく暑い。炎帝と呼ぶにふさわしい夏だ。
「たるんどる! 心頭滅却で乗り切れ!」
だらける部員に真田の激が飛ぶ。
「そうは言ってもこの暑さはひどいっすよ~」
「ああ、さすがに溶けそうじゃ」
したたる汗を拭う切原に、すべるグリップを何度も握り直す仁王。
「都内でも38度か……」
柳が思案顔でつぶやいた。
「精市、ちょっといいか」
「何だい?」
自分の座るベンチに近づいた柳に幸村はゆっくりと顔を上げた。
「あいにくと我が立海の誰もが真田ではない」
おもむろに切り出した。
「……そうだな。誰もが真田だったら……」
困るな、と言葉にはせず幸村は口をつぐんだ。
「つまりは休憩だな、わかったよ蓮二」
ベンチから立ち上がった幸村は、真夏の日差しへ向かい凛とした声をコートへ放った。
「20分休憩しよう」
「20分もか? 長くはないか?」
真田が眉を寄せた。
「いや、先生からも言われているんだ。熱中症予防を充分するようにって」
「……ああ、それは致し方あるまい」
幸村に言われ、さすがの真田も全国的に熱中症で倒れる人々のニュースを思い出した。
「はぁ、生き返るぜ」
木陰でスポーツドリンクを一気飲みした丸井は、首にかけたタオルで顔を拭いた。
「まったくだ。この暑さはひでぇ」
ジャッカルも、今濡らして来たタオルで何度も首筋や腕をぬぐった。
「試合当日もこの暑さだとしたら参りますね」
「野球部の連中は元気ぜよ」
ひと息ついた柳生の言葉に、仁王は遠くを見ながら言った。
白球を打つ金属音がグラウンド側から聞こえて来る。
「甲子園ですか……」
柳生も野球部員達の掛け声に耳を傾けた。
目指すは全国。それはテニスも野球も変わらない。
暑い日差しの中、ボールを追いかけくらいつく執念。
最大の敵は暑さかもしれない。暑さとくじけそうになる自分。
それを乗り越えた時、炎帝をも味方に引き込める、そう思った。
「もうひと頑張りぜよ」
仁王が伸びをして立ち上がった。
「そうですね」
柳生もそれに続いた。
白球の音が小気味良く飛んだ。
「参謀殿、お相手願うぜよ」
「ダブルスか? たまにはいいな」
仁王と柳生が並んで来たのを見ると、柳は目を細めた。
「弦一郎、行くぞ」
少しだけまばたいた真田もゆっくり立ち上がった。
白い雲が幾重にも湧き上がり、真っ青な空に際立っていく。静かだったコートに、再びボールの音が戻った。
夏よ暑くなれ!
fin.