箱庭~話の花束~Episode1〜
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『炎帝』
夏の異名を炎帝と呼ぶが、今年ほどそれにふさわしい名前はあるまい。
「よし、10分間休憩!」
暑い日差しが照りつける中、セミの声を割って手塚の声が響いた。
「ふみゃーっ水水水ーっ!」
菊丸が叫ぶと同時に水飲み場に走り、勢いよく蛇口をひねる。ほとばしる水に頭を突っ込むと他の部員も次々に水をかぶる。
「手塚ちょっと」
「はい、先生」
テニス部顧問の竜崎に呼ばれると、手塚は小走りに駆け寄った。
「今陸上部で熱中症で2~3人倒れたらしくてね、休憩を長く取るか帰宅させろと言って来たよ」
竜崎はちろりと校長室のほうへ視線を向けたが、すぐ水遊びを始めた菊丸達がはしゃぐ姿に目を戻した。
「水分を充分摂らせて休憩させます」
手塚も竜崎にならい、視線は静かに菊丸達を追ったが眉はしかめられていた。
「英二、手塚が来たよ」
「え、わっ」
蛇口を押さえホースのように水を海堂や桃城かけていた菊丸は、不二の言葉にあわてて水を止めた。
「……休憩を1時間延長する。各自水分をよく摂り、必ず日陰で休むこと。以上だ」
「驚いた……てっきりグラウンド10周って言われるかと思ったのに」
「あの目は言いたそうだったよね」
菊丸の言葉に不二が笑った。
「他の部で熱中症が出たそうだから、言いたくても言えなかったんだろう」
乾がそれに応えた。
「へー熱中症か。まぁ、確かに今日はやたら暑いぜ」
大きく息を吐くと、まぶしい雲と青空を見上げて桃城が言う。
「まぁな……」
つぶやくように海堂が言うとバンダナが吸い込んだ水を思いきり絞った。
「炎帝か……」
見上げた太陽に乾もつぶやくとそのまま木陰へと向かった。横目に入る竜崎と話す手塚の姿に
「手塚も静かな炎帝かもしれないな……」
そんな風に思った。
長い夏は続く。
終わりは……ないのかもしれない。
fin.