箱庭~話の花束~Episode1〜
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『熱中症対策』
「さて、今年はともかく暑さが厳しい。室内でも熱中症になり、救急車の出動も過去最高をマークしている」
テニス部のミーティングで、全国大会へ向けた部長幸村の話が終わると、それを引き継ぐように柳が話し始めた。
「まず気をつけて欲しいのは、練習中はもとより自宅でも塩分摂取を心掛けてくれ」
「え……塩分すか?」
柳の言葉に切原も驚いたように目を丸くした。
「そうだ。水分だけでは汗で失われたミネラルや塩分を補充することは出来ない。明日からはドリンクの内容も変えて、水にりんご酢とハチミツを混ぜたものも飲むようにしてくれ」
「へえ……」
スポーツドリンク以外、あまり気にしたこともないのか、丸井もまばたいた。
「手っ取り早いのは、毎朝部活に来る前の朝食で味噌汁を飲んで来るのが一番だな」
「我が家の朝はパン食なのですが……」
柳生が眼鏡フレームを軽く押し上げながら立ち上がった。
「それならば、コンソメスープなど一品加えるか、スクランブルエッグに塩コショウ、あるいはベーコンエッグなどにするのもよかろう」
「なるほど、そうですね。母にも伝えておきます」
うなずくと柳生は腰を下ろした。
「何だかミーティングっつか家庭科みたいっすね」
こそこそと切原が笑いをこらえるように丸井に耳打ちした。
「だな」
丸井もこっそりと笑った。
「大会前の練習中に倒れられちゃ困るからね。日中の暑い時間は休憩を多く取り入れて、必ず日陰で休むこと。少しでも調子が悪いと思ったら無茶はしない」
幸村も自分に言い聞かせるように部員を見渡して言った。
「切原」
「うわっははい!」
忍び笑いをめざとく見つけられた切原は、直立不動の姿勢で椅子から飛び上がった。
「お前は今朝何を食べて来た?」
柳の細い眼差しが鋭く光った……気がした。
「あ、スイカっす」
「……何?」
「いや~、昨日祖母ちゃんが田舎から来たんすけど、軽トラに大量のスイカ積んで来たもんすから、一人2個がノルマなんすよ」
切原の言葉に部員の目つきが変わる。
「……1個分けてくれんかのぅ」
「俺も」
「あ、いっすよ。いっそテニス部でスイカ割りしますか?」
「切原」
「すんません」
調子に乗る切原も幸村には首がすくむ。
「明日の朝もスイカなのか?」
「あ~多分そっす」
おどけたように笑う切原に柳が言った。
「塩ぶっかけて食べて来い」
部室の外で鳴いていたアブラゼミが飛び去った。
fin.