箱庭~話の花束~Episode1〜
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『柿色の夕暮れ』
「あ、柿だね~」
「ほんとだ、美味そうだぜ」
秋の休日、変わりなく部活があった帰り道。氷帝の芥川と向日があちらこちらと寄り道をしながら歩いていた。
「俺さ~結構休みの日の部活って好きなんだ~」
「へーえ」
いつも寝ている芥川にしては珍しい発言だと、向日は思い芥川を見た。
「だってさ~学校は休みだから朝練よりゆっくり出来るC~、帰りも早いからブラブラ出来るっしょ」
にこにこしながら嬉しそうに言う芥川に向日もつられて笑った。
「だな、いつもは帰りは暗いし腹減ってるし、疲れるばっかりだもんな」
だが、いつもより早いとは言っても、弁当を食べてから午後の練習を終えたのだから、日は傾いている。
ゆっくりと夕焼け空に柿の実の色が溶け込んでいく。
「あれっ、何だろ~」
ぼーっと薄暮れていく空を眺めていた芥川が、突然指を差した。小さな黒いものが素早く空を移動している。
「え、あー……コウモリじゃね?」
「コウモリ? 嘘嘘、マジっ? コウモリってこんな所で飛ぶの?」
芥川が興奮してジャンプしたり空を指差したり、向日を見たり、を幾度も繰り返した。
「夕方になるといつも飛んでるぜ? 別に珍しくもねーけど?」
コートでアクロバティックを繰り広げる向日の視界には、夕暮れに飛び交うコウモリの姿も入るのだろう。
「へーえ、でもちっちゃくて可愛いC~。いいよね~」
あこがれるような眼差しで、芥川はずっと薄暗くなる空を見続けた。
「そういや、1年生の子の靴箱にコウモリが入ってたって聞いたな」
「ええっ? マジそれ~! いつさ~」
やっと二人はその場から離れて歩き出した。
「先月か。何だか入れといた弁当箱に止まってたとか言ってたな」
「え~、靴箱にお弁当とコウモリ入れちゃうの?」
芥川のビックリさ加減に向日も呆れて笑った。
「違うって……あ」
その時、住宅街の脇道から独特の節回しのテープを流しながら、焼きいも屋のトラックがゆっくりと出て来た。
「焼きいも……」
「いい匂い……」
トラックが焼きいもの香りを二人にたっぷりと残し、のんびりと追い越していく。
「ジロー腹減らねーか?」
「とっくに減ってるC~」
二人は顔を見合わせると同時に笑ってダッシュした。
「おじさーん!」
「焼きいも~」
空には名残の夕焼けに染まる柿色の細長い雲が伸び、家々の窓には明かりが灯っていく。
fin.