箱庭~話の花束~Episode1〜
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『夢の叶え方』
「どうしている?」
昼休み、柳蓮二は下級生のテニス部員の一人に声をかけた。
「……その……」
言葉少なにうなだれたまま、その部員は柳を見ようとしない。いや、見る事が出来ない。
王者立海の名に惹かれ、毎年新入生が大量にテニス部に入部するが、その練習の厳しさに根を上げ、一人また一人と辞めていく。その中でも下級生は二年生まで頑張ってついてきた。
だが、最近部活も休みがちでふさぎ込む日々が続いている。
「幸村もどうしたのか、と心配しているぞ」
「幸村部長が?」
びっくりして声と顔が思わず上がる。
だが、柳の薄く開かれた目と合うと、あわててまた下を向いた。
校庭の木陰にたたずむ二人の前を、昼休みをボールで遊ぶ生徒達が走り抜けていく。
「俺、自信がないんです……」
ようやくポツリと下級生部員はつぶやいた。だが、その声は校庭を走り回る生徒達の歓声やボールを打ち合う音でかき消されそうだ。
二年生はレギュラーの切原を筆頭に、準レギュラーが最近入れ替わったりしてしのぎを削っている。
下級生も準レギュラーだったが、一年からの友達と入れ替わるようにして、準レギュラーから落ちてしまった。
(実力がないわけではないが……)
柳も下級生のデータを頭の中で分析する。
「焦りが空回りを生んでいるんだ。お前もいいものを持っている。部内の紅白試合で、仁王の脇を抜いたろう? あれはいいコースだった」
下級生はカッと耳まで赤くなった。
「あれは、偶然です!」
自分の手をギュッと握り込むと、うめくように言った。
「偶然も実力のうちだ」
柳の言葉をサヤサヤと葉を揺らす風が運ぶ。
「俺、立海のレギュラーメンバーになって全国制覇をしたい……それを夢見てずっと憧れていた立海に入りました」
しかし、憧れて来るのは下級生ばかりではない。強い者が各地から集まる。そして、強い者ばかりの中では、より強い者が輝いていく。強いと思っていた自分は弱さを思い知らされ、打ちのめされる。
「誰もがそうだ。夢を追い続ける事は、時に厳しい現実を突きつけられる」
ゆっくりと柳は言った。
憧れと迷いと挫折、希望と壁と見えない未来。
下級生は、ただぐるぐると言葉にならない悩みや思いを巡らせる。
「夢を叶えるには三つの条件があるんだ」
「……え」
幹に寄りかかる柳は、腕を組んで空を見上げた。
「ひとつ目は、そのものを好きであること」
自分はテニスが好きだったはずだ。それが今は苦痛に感じる。しかし……。
「二つ目は、そのために練習をすること」
朝練も一生懸命出たし、基礎メニューも毎日やった。
「そして三つ目。これが一番大事だ。決してあきらめないこと」
「……!」
下級生は、固まったように柳を見た。
その時、予鈴が鳴り始めた。校庭でざわついていた人波は、そのまま校舎に移動していく。
「ではな。俺も、幸村も、真田も、皆で待っているぞ」
腕組みをほどくと、柳の姿も生徒達の波に混ざっていった。
「決してあきらめないこと……」
もう一度下級生は、柳からの言葉をつぶやいた。
今なら、テニスが出来る……そう思った。
fin.