箱庭~話の花束~Episode1〜
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『読書の時間』
「何を読んでいらっしゃるのですか?」
全国大会の会場の片隅で、本を読んでいる青学の少女の姿を見掛けた柳生は、つい声をかけた。
「これですか?」
顔を上げると少女はその本を柳生に手渡した。
「モダンホラーですか。珍しいですね、あなたがこの手の系統をお読みになるなんて」
パラパラとページを繰りながら柳生は言った。
「え! これホラーなんですか?」
驚いたように受け取った本を見返す少女に
「内容を知らずに読んでいらっしゃったのですか?」
柳生も眼鏡のフレームを直しながら聞いた。
「あ、実は」
と、少女はその本を手に入れた経緯を説明した。
「でしたら、私も文庫本を持ち合わせていますから、お貸し致しましょうか?」
いったん立海メンバーのいる場所まで取りに戻ると、柳生は少女に一冊の文庫本を差し出した。
「ありがとうございます。読み終わったらお返しに伺いますね」
「それはいつでも構いませんよ。もし気に入りましたら、シリーズで持っていますから、続きもお貸し致します」
本当はそのままあげてしまっても構わない本なのだが、それを口実に少女にまた会える、そして、シリーズで借りてくれればもっと会える、そう柳生は考えたのである。
「どうした?」
手塚が二人に気付き、話しかけて来た。
「では失礼致します」
軽く手塚に目礼すると柳生は戻って行った。
「本なら俺も持っている、待っていろ」
「え、手塚先輩」
話を聞いた手塚がスタスタと行ってしまうと
「本は俺も持っているよ」
「俺もな」
「俺もや。映画の原作本やけど、おモロいで」
幸村に柳、忍足まで、やって来た。
そして、またたく間に少女の傍らに積み上がった文庫本が六冊。
(皆さん読書好きなのね)
六冊の本をあれこれ手に取ると
「あの、時間はかかるかもしれませんが、必ず読んでお返しに上がります」
少女は頭を下げた。
「俺のはいつでも構わないからね」
「まあ、ゆっくり読むといい」
「俺のもやで。ほなな」
一人ずつそう言うと、それぞれの場所へ戻って行った。
「どこへ行っていたの?」
手塚が青学の場所に帰ると不二がそう聞いた。
「いや、別に」
そう言うと、手塚はフェンスに寄りかかり、腕を組むと軽く目を閉じた。
(まあ、聞かなくてもわかるけどね)
先ほど本を取りに来た手塚と、明らかにまとう雰囲気が違う。それに肝心の本は手にしていない。
不二の推測は正しい。
自分も本を持ってくればよかったな、と不二も手塚が向かって戻って来た方向を見ると、残念そうに思った。
fin.